君と僕の間にあるモノ。

□やりたい事はいっぱいある
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「ゆーうっ!!」


病室の扉を開けると、真剣に本を読んでいる優の姿が見えた。
僕の呼び掛けに気付いた優は、ユキ、と僕の名前を少し大きな声で呼び、小さく微笑んで見せた。

そして、読んでいた本に、ゆっくりと栞を挟み、本をパタリと閉じる。
とんとん、と僕は優の傍まで歩み寄り、いつもベッドの下にしまってある椅子を取り出して、そこにゆっくりと腰を下ろした。

優しい手つきで本を撫でる優の目に、軽く涙がにじんでいた。
どうしたの、と心配になってたずねると、この本がね、と一言短く話した。

優の呼んでいた本は、恋愛小説らしい。

内容は、1人の女の子が、病気の男の子を好きになる。
だけどその男の子はもう1年も生きられない身体で、やがて好き合ったまま、男の子の方が死んでしまう。
だけど、その恋愛で女の子はいろいろなモノを貰う。
結果は失恋のような物だけど、女の子の心には沢山の大切なモノが残った。

そんな話だそうだ。


「この話好きなんだ。もう3回も読んでる」


そう言って、読み過ぎかな、と苦笑する。
その表情は、嬉しそうな、悲しそうな表情で。
小説の中の人物に、自分を重ねているのかな、と思った。


「いっぱい読めば良いんじゃない?」


何回読んでも飽きないな、って思う本少ないと思うよ。

僕のその言葉に、そうだよね、と嬉しそうに笑った。
この本は僕が優に頼まれて買ってきた本だった。
何だか人気の本のようで、映画化も決まったとか何とか書いてあった。


「この本、映画化も決まったんでしょ?今度見に行こうよ」


僕のその言葉に、行けると良いなぁ、と自嘲気味に優は呟いた。
そんな事、言うなよ。行こうよ。2人で、さ。


「行けるよ。行こう?後、三週間後でしょ。映画が公開されるの」

「うん」

「よし、決定だよ。行こうね。三週間後、公開当日に」


僕はちょっぴりワクワクしていた。
だが、それと同時に行けるのか、なんて不安も込み上がって来て・・・。
僕がそんなに不安になってちゃいけないのに。

優は行けるよ。だって僕との約束は破った事無いだろ。
大丈夫、そんなに不安に思う事なんてない。
優のしたい事、見たい物、欲しい物、全部。



僕は余った時間の中で君のしたい事、全部させてあげたいんだ。






***



患者さんとの面会時間は、午後の6時まで。
だから僕は、座っていた椅子を元あったベッドの下に入れる。
その後に、荷物を持って優に挨拶をして帰ろうと思った。


「ユウ、僕もう行くよ。また明日来るから」


僕がそう言って笑うと、優は寂しそうに、うん、と頷いた。
それに、僕はまた明日来るから、と優を諭した。


「うん・・・。またね」

「うん!またね」


そう言って、優に手を振り、ぱたりと静かに扉を閉めた。
優はいつもみたいに、名残惜しそうな顔をしていたけど、制限があるんだから仕方ない。

もう余命が無いなら、家で暮らせばいい。
僕は最初そう思ったのだ。
だけど、それは難しい、いや。無理だった。

なぜなら優の病気の原因は心臓にあった。
そのため、外に出たくてもあまり長時間は動けない。
だから、ほとんど病院生活なんだ。
いつ、何があっても良いように。

僕はそれに納得した。

だって、もし外で何かあって、優の死期を早めるなんて事、したくはなかったから。
優はきっと長く生きるよ。
だって、もう一か月後には死んでしまうなんて思えないくらい元気だから。

僕は帰ろう、と思って優の病室の前を後にした。
病院の廊下には、いろいろな人がいて。

点滴を付けて歩いている人。
お見舞いに来たのか、花束を持っている人。
車椅子の患者さん、そして看護婦さんやお医者さん。

いろいろな人がいる。
元気そうに見えて、大きな病気を抱えている人。
頑張っていないようで、人知れずがんばっているような人。
僕はどれなんだろう。

そんな事を考えて、僕は病院を出た。
外はもう、三月だと言うのに雪が降りそうな程寒い。

学校の制服にコートしか着ていない僕は、だいぶ薄着だと思う。
寒い、寒いと思いながら、家に帰るためバス停へと向かった。






    
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