君と僕の間にあるモノ。
□事情はそれぞれ色々ある
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「お疲れさん。今日はもう終わりだ」
はあーっ、と皆がいっせいに溜息を吐いた。
俺は、今日は用事があるから、と皆を生徒会室に残し、1人だけ家路についた。
お疲れ様でした、会長、と皆笑顔で見送ってくれた。
カバンの中から携帯を取り出して、家に電話をかける。
プルル、プルル、と音がして、俺の家の奴が出た。
「もしもし?」
『もしもし、・・・伊玖磨(いくま)?』
そう、と短く返事を返して、俺は今から帰る、と一言告げる。
電話に出たのは俺の兄だった。
『もう生徒会終わったのか?』
「ん、今日は終わらせてきた。別に急ぐ用事も無いから」
そっか、と少し笑った兄さん。
俺は、それに今日は、と返した。
今日は母さんの手術の日だから。
兄さんがぐっと息を飲むのが分かった。
そして、その動揺を隠すかのように、無理に笑う。
そんな事しなくても良いんだよ、兄さん。
「そうだな、・・・・・・・大丈夫だ。母さんなら」
兄さんの声が微かに震えていた気がした。
***
俺の母さんは、少し重い病気にかかっていた。
生存確率、20%の、心臓病。
その病気を治すには、手術が必要だった。
少し難しい、心臓の病気を治すオペ。
成功する確率は、生存率と同じ、20%。
手術をしないで、そのまま死んでしまうよりも、もしダメでも、手術を受けた方が良い。
俺の家族は、俺も含めて1週間前、そう判断した。
そして、その手術の当日、と言うのが今日なんだ。
自分の親が死ぬかもしれないのに、じっとなんかしていられない。
「兄さん。俺も今からそっち向かうからさ、手術始まったら連絡くれないか?」
俺のその言葉に、分かった、と言って兄さんは電話を切った。
正直、凄く怖いさ。
だって世界でたった1人の母さんだ。
誰も変わりなんていない、家族って言うのは、世界でたった一つしかないんだから。
『今度入って来る一年生、か・・・・。
親は・・・、5年前事故で他界・・・。
双子の姉が居て、余命はあと・・・・、1年・・?』
ぱっと昔の記憶が、フラッシュバックした。
名前は、しっかりとは覚えていない。
だけど、彼の命も後1カ月程だ、と頭の中で単純計算をした。
そんな状況にいる人が居る。
俺はそう思ったら、すこし自分が情けなく思えてしまった。
"諦めたらそこで終わりだ"
あの子の事は、凄く残念だと思う。
だけど、俺の方はまだ希望が無い訳じゃないんだ。
こんな比べ方、凄く失礼だし、最低なのも分かってる。
だけど、少し頑張れると思ったんだ。
俺は、ありがとう、と小さく呟き祈った。
「神様、お願いします。まだ生かして下さい、母さんを・・・。
そして、彼と、その双子の姉にも、幸せがありますように」
よし、大丈夫だ。
そして俺は走りだした。
急がなければ、間に合わないだろう。
まずは走ってバス停向かい、病院行きのバスに乗り込む。
早く、早く、と急かす気持ちを抑えて、俺はひたすら祈った。
だって俺には、それくらいしかできないから。
"神様に祈る。母さんの事と、それから・・・・彼と彼女の事を"