君と僕の間にあるモノ。

□勇気を持って欲しかった
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それはある日の放課後の事。

僕は、やっぱりいつものように、優の病室を訪れていた。


「ユウ凄いね・・・、またそんな難しそうな本を・・・」

「え、ああこれ?難しくないよ。ユキも読んでみる?」


以外と面白いんだよ、と優は僕に今読んでいた本を、すっと差し出してくれる。
だけど、やっぱり僕には難しそうに思えてならないんだ。

だって、もう本のタイトルから日本語じゃないんだもの。

僕はまず、これ何語なの、と優に質問してみた。
コレを読むために優は、そうとう勉強したんだな、と思わせるには充分な本だ。
昔から優は、興味のあるモノは徹底的に調べ尽くす子だったから。

でも、まさか一冊読むために、一カ国語マスターするとは、誰が考えられただろう。
そう言う所の、記憶力の良さなどは、全部神様が優にくれたのかな、と思うと、
僕はつくづく、神様って意地悪すぎる、と思わずには居られなかった。

だって、こんなにいっぱい才能を持ってる優の、何が神様は気に食わなかったと言うんだ。

ああ、やっぱりダメだな僕は。
優の事となると、誰かを恨んだり、そう言う嫌な思考しか頭を巡らない。
本当、僕はどうすれば良いんだろう。


「ユウ・・・・これはイッタイ何語デスか」

「え?フランス語だよ」


優は、あたり前だよ、と言うように僕の方を見た。
いやいや、無理ですよ読めません。


「う、ぼ、僕はフランス語はちょっと・・・」

「読めないんでしょ?」

「えっ!?」


そう言って、分かってるよ、と優はからかったような笑いを浮かべるんだ。
僕は少しむっ、とした表情を浮かべ、からかったなっ、と優に少し怒ってみる。

すると、くすくす、と優は僕に向かって笑いかけるだけ。
少しむっ、としたけど、やっぱり優の笑った顔を見ると、自然に僕の心は穏やかになるらしい。

それもそうか、と僕は自分の考えに納得した。
だって、優は、大事な僕の半身だから。
大事な、世界でたった1人だけの家族だから。


「でも凄いよねー、ユウは」

「なんで?」

「んー?だってこんなむっずかしい本読めるんだよ?」


僕は本を眺めながらそう言った。
すると、優は少し苦笑する。

僕はなんでそんな風に苦笑するのか、少し分からなかった。
だけど、次の言葉で僕は少し納得し、後悔するのだった。


「どうせならさ、こうやって理解する能力とか、全部ユキにあげたかったよ。僕は」


ああ、やっぱり。僕らは本当に双子なんだな。
いつもお互いに想うのは、お互いの事。

そんな小さな思考回路の欠片にでさえも、少し嬉しくなった。
だけど、同時に、こんな小さな事で得られる幸せにさえ、僕の手は届かなくなってしまう。
それがどう言う事か、そんなの僕達自身が一番理解していた。


「こんな事言ったら、ユキは悲しむかもしれないけど・・・・。

僕はもうすぐ居なくなっちゃうんだ。

だから、この小さな力でさえ、最初からユキの物だったら良かったのに。

今、僕はそう思っちゃったんだ」


ごめんね、と優は少し笑う。
その顔は、苦笑してる顔とも、また違った。
なんだかこの顔は、あの時の顔に似ている。





あの小さい頃の、母さん達をなくした頃と同じ表情。





僕はふいに、あの頃の記憶が戻ったような気がしたんだ。
あの、どんなに泣いても、呼んでも、悲しんでも、絶対に戻ってこない。

もう、会える事は絶対にない、そんな、幼いながらに体験した絶望感。

その時の表情を、優は今してるんだ。
こんな時、僕に出来る事はなんだ?

僕は優の頭を軽く撫でながら、笑いかけた。


「そんな顔するなー!

ユウはまだココに居るんだよ?

生きてるんだよ!」


まだ時間は沢山ある、と僕は小さく笑う。
ごめんね、優。こんな事しか言えないけど、僕は優の笑ってる顔を、沢山見たいんだ。
こんなの僕の我が儘だろうけど、笑ってよ、ねえ。


「ふふっ、」


優が少し笑った。
その表情は、さっきとは打って変わって、少し嬉しそうな表情。
うん、僕はそれが見たいんだ。
もっとキミが、幸せだって思える時間を増やしたい。




ねえ、ユウ。

キミはまだ生きてるんだよ?





僕達はその後、こんな暗い話じゃなくて。
もっともっと、色んな楽しい事の会話をしようと思った。

だから、この本はこんな内容なんだよ、とか。
今日、こんな事があったんだ、とか。
こんな事があったら面白そうじゃない、とか、空想のお話まで。

全部僕らは言い合った。

なんだか、こんな時間が幸せで。
もっともっと、時間が欲しい。
そんな事まで思った。

今はまだ生きてるから。

最後なんて考えないで、生きて居たいんだ。
そんな事考えないで、ただたんに、幸せだった事だけを感じたかった。


だって今は、僕達の思ったように進むんだから。
幸せだって思えば幸せな時間になるし。
悲しいって思えば、それは悲しい想い出になってしまう。

だから、今だけは幸せだって思いたかったんだ。


「あ、やっぱりコレ読む?」

「ええっ、いやいや、読めないってそれ!!」

「あははっ、冗談冗談」

「フランス語なんて簡単にマスターデキマセン」

「ふふ、頑張ってみたら?」

















          
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