君と僕の間にあるモノ。
□感情の誤差0ミリ
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( 視点・リント )
なんか、オレって結構ラッキーかも。
今初めてそう思えたのは、オレの気になってるアイツが今日、日直だったって事。
生憎、オレはアイツと隣の席でもないし、出席番号も遠いから、一緒にやるなんて絶対にない。
だけど、ラッキーだと思ったのは、アイツの隣の席のヤツが、オレの親友だった事。
朝、アイツに話しかけてみたいんだ、とそう親友に、日直を変わって欲しいと交渉してみたら、
ニヤニヤ、と笑われて、しょうがねえな、と言われた。
ニヤニヤすんな、と少しだけ恥ずかしくなって、ソイツを軽く小突いてみたが、
急に真面目な顔で頑張れよ、と言われたんだ。
頑張るさ。せっかくのチャンスだしな。
(・・・そうだよ。チャンスなんだぞオレ。話かけてみろよ、オレ・・・!!)
なんかもう、少しだけ自分に呆れそうだ。
放課後、2人で黙々と日直の仕事をしていた。
それなのに、全然話せねえ。
バカ、オレのバカ、と何回心の中で自分の事を罵った事か。
そんなの何回かなんて分からないけど、とにかく話す勇気なんて無かった。
勇気出すんじゃねーのかよ。オレ。
昨日の意気込みはどこへやら。
オレは、緊張して全然会話が出来なかった。
(こんなんじゃ何でわざわざ代わって貰ったのか分かんねーだろ・・・!)
会話してみろよオレっ、と心の中で自分を激励する。
そして、もう一度深呼吸をして、よしっ、と意気込んだ。
そして、ぱっ、と後ろに居るアイツの方へ振り向き、あ、あのさっ、と声をかける。
「・・・なに?」
いきなりだったので、少し驚いた表情を見せたアイツ。
声をかけたのはオレなのに、なんかオレも少し驚いた。
え、これで、オレ何話そうとしてるの?
やべえ、と少しだけパニックになった。
だけど、話かけた以上、何か話さなければ。
と言う事で、オレは、コイツの事で一番気になっている事を問いかけた。
「お前さ、いつも放課後急いでるけど、
どこ行ってんの?」
なんか、凄く不器用な言い方しかできないんだな、オレ。と改めて悲しくなった所で、
ふとアイツの表情が変わる。
急に、少しだけ俯いて、なんで?、と今度は逆に問いかけられた。
(え。オレ、もしかしてなんかヤバい質問したのか・・・?)
「いや、特には、さ。気になったからよ」
お前さ、結構なんでもできるじゃん?
なのに友達とか作らないし。
不思議だなあ、と思った。
なんて、苦笑しながら言ってみる。
ねえ、これはマジでなんかの地雷踏んだ・・・?
内心、すっげーそわそわしてる。
だって、なんか少し印象悪くなったらどうしようとか怖えーし。
オレは、少しだけ落ち着きなく、ソイツからの返事を待った。
「病院、だよ」
その言葉に、え、とオレはびっくりした。
病院?なんで病院なんだ。コイツ、とっか悪いのかよ。
急に、何か凄い不安感のような物がオレを襲った。
もし、コイツが病気で、どっか悪いとかだったらどうしよう、とか。
いなくなったら、ヤダ、とか。
なんか泣きたいような気持になったから、とにかく、病院に何しに行ってんだ?、と問いかけてみた。
「お見舞い」
お見舞い。
その言葉に、オレは肩の力がどっと抜けた。
な、なんだ、コイツがどっか悪い訳じゃないのか。良かった。
・・・いやいや、良くないけど。
「誰のだ?友達?家族か?」
「家族なんだ。僕のゆいいつの家族」
そう言って、悲しそうにソイツは笑った。
なんだよ、なんでそんな顔すんだよ。
オレは、その笑みを見て、少しだけ心臓のあたりがきゅう、となるのが分かった。
なんか、そんな顔をさせてるその家族の病気が、速く治ればいいのに。
そうすれば、そんな顔しないだろ。
オレは、小さく手の平を握り、そう祈った。
コイツが元気に笑ってくれますように。
家族の病気が速く治りますように。
「あのさ、その家族って、大丈夫なのか?
いつ治るんだよ・・・?」
オレは、なんか少しだけ心配になって、そんな事を問いかけた。
すると、日誌を書いていたアイツの手が、ぴたり、と止まる。
そして、いっきに泣きそうな顔になり、そのままオレの方に向かって微笑んだのだ。
「治らないんだ」
そう言いながら、無理したように笑うコイツに、オレはえ、と声をもらした。
治らないってなんだよ。
どういう事だよ。
オレは、ただ、黙ってソイツの話を聞いた。
「僕の双子の弟なんだけどね、名前は優(ユウ)って言うんだ。
僕達の両親は昔、事故で死んじゃってさ。
2人で親戚の家で育ったんだけど、・・・今から3年前。
僕達がちょうど、10歳の時に、心臓に病気が見つかったんだ。
それで、余命は3年って言われて、その3年目が今年なの。
あと1か月くらいになるのかなあ」
2人で居られるのは。と、なんだか呆気らかんとソイツは話すものだから、一瞬ぽかん、としてしまった。
両親、居なくて。
弟の余命があと1か月?
何言ってんの、なんでそんなに簡単に話してんの。
そんな悲しい事。
オレなんて、両親居るのが当たり前で、兄妹はいねえけど、友達が居る。
両親居ないなんて、どんな感覚なんだろう。
友達が余命1か月なんて、どん感覚なんだろう。
オレはそう考えた。
だけど、そんなの、もし両親が居なくなったら、なんて考えて、涙が出そうになった。
いつも母親とは喧嘩してばっかだけど、居なかったらきっと寂しいし。
親父とは、話せることがいっぱいあるし。
しかも、友達が居なくなりそうだなんて、考えただけで嫌だ、そんなの。
オレは、無言でそんな事を考えていたら、いつの間にか、なぜか泣いていた。
「えっ、ちょ、リントくん、どうしたの」
「っう、な、なんでもねえ・・・!こっち見んな・・!」
ばっ、とオレは後ろを向いて、ぐいぐい、と袖で涙を拭う。
うわ、なんで泣いてんのオレ。
恥ずかしいし、カッコわりぃ。
だけど、そんな状況辛すぎて、なんか涙が出た。
「本当、大丈夫?」
ぽんぽん、と心配して肩を叩かれた。
なんかオレもうヤダ。
好きなヤツの前で泣いちまうわ、なんか変な話に持ってっちまうわ。
本当、なんか格好悪い。
しかも、挙句の果てには、なんかハンカチまで出された。
本当、申し訳ない。
「す、すまん・・・」
「いや。大丈夫だけど。・・・どうしたの?」
とにかく、いきなり泣き出したオレに、とにかくコイツは不思議がった。
だから、オレは、素直に思った事を口にしてみる。
「お、お前の話聞いてたら、なんか悲しくなった・・・」
そんだけ、と小さく呟いてみると、アイツはきょとん、とした顔をして、
次の瞬間、小さく笑い出した。
オレは、なんで笑うんだよ、と言ってみると。
僕の話をしてそんなに簡単に泣いたのは君が初めてだよ、と言った。
ああ、やっぱりオレが初めてなんだな。
なんかやっぱり格好悪い。
「お、オレ、格好悪い・・・」
「え?格好悪くなんかないよ。僕は嬉しかったよ、共感してくれて」
リントくんがこんなに話せる人だとは正直思って無かった。とアイツは言う。
それに、オレそんなにバカに見える?、と少しだけどきどきしながら答える。
すると、幸せしかしらないような人だと思ってた、と直球な言葉が返ってきた。
そんなにお気楽に見えるんだな、オレ。
「・・・・・・・って、そうじゃねえ!!」
「ん?」
「お前、速く病院行ってやんないとだろ!?」
オレは、はっ、と思い出したようにそう言った。
すると、そうだね。と笑みが返って来て、それに少しだけどき、っとしたが、
そんなの感じてる場合じゃない。
速く行ってやれよ、あとオレが全部やる。とオレは言った。
だって、いつも急いで教室出て行くもんな。
今日だけ遅いなんて、なんか弟が可哀想だろ。
「行っても良いの?」
「良い。全然良い。むしろ行ってやれよ」
ぽん、とコイツのカバンを引っ掴んで、コイツに押し付けた。
すると、驚いたような顔をした後、うん。と笑顔で言ってくれた。
ぱたぱた、と教室を出て行くアイツを見送って、オレは1人だけぽつん、と教室の中からその扉を眺めていたのだ。
(そっか、そんな事があったんだな)
オレは、悲しいな、とアイツの気持ちに少しだけ共感して、
すぐに日直の仕事に取りかかった。
と言うか、オレ、話せたし。
アイツ、少しは笑ってくれた。
その事が、なんだか嬉しかったんだ。些細な事かもしれないけれど。
「・・・よし、頑張るぞ」
アイツの笑顔が、もっと見たいから。
オレは少しずつアイツに関わってみたい。
そんな風に、思ったんだ。
"感情の誤差0ミリ。オレはアイツに共感した"