イナイレ

□揺れる瞳
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だって知ってたんだよ。
先輩は絶対僕の事を見てくれるなんて事は無い。
先輩の視線の先には、いつもあの人がいて。
僕なんて本当、ちっぽけすぎて・・・。
あの人の足元にも及ばないよ。





「無理だよ。だって俺なんか絶対あの子の眼中になんかないって〜・・・・」





ああ〜、となんだか残念そうに笑う風丸先輩を見て、僕の胸はちくりと痛んだ気がした。
風丸先輩が陸上部を抜け、サッカー部に入部した1か月後の事だった。


僕は、入学式の日に、風丸先輩を見かけたんだ。
良かったら陸上部、入部してみてよ、と僕にチラシを渡しながら笑った。
その時からだ。
もう、一目惚れだった。完全に。


だから僕は、風丸先輩に憧れて陸上部に入部。
新入部員で慣れないで緊張していた僕に、俺がおいでって誘った子だよな、入部してくれてありがと、ってあの笑顔で笑ってくれた時に、
やっぱり僕はここに入部して正解だと思った。


あんなにいっぱいの人にチラシを配っていたのに、僕なんかを覚えてくれていた事に、素直に嬉しかった。





だけど、やっぱり僕はいくら背伸びしたって、先輩の視界には入らなかったみたいだ。
風丸先輩に、凄いなって褒めてほしくて陸上部頑張ったし。
学校内で話しかけられれば、それだけで凄く嬉しくて幸せだった。


別に先輩の心が欲しいって訳じゃない。
だけど、やっぱりもどかしいって僕のココロが言うんだ。





「大丈夫ですよ!!風丸先輩なら、カッコいいって噂だし。絶対想いは届きます。自信、持って下さい!」





ニコリ。そうやって無理に笑って見せる。
そうすると、一瞬驚いて「ありがとな」って照れくさそうに笑った。
それに僕の心臓はどくん、と大きく波打つ。


本当、風丸先輩は鈍いです。
あの人だって、風丸先輩に気がありますよ。
その恋は、きっと両思いです。





なんだかそんな事を考えて、むしょうに泣きたくなった。
あーあ。自分で自分を苦しめてるみたいだ。僕は。



風丸先輩に想われるあの人が羨ましい。
でも、やっぱり先輩の心は先輩の物だから。
僕がどうしたって先輩には届かないのだろうか?
人の心を動かすって案外難しいものだな。






そして、1週間くらい経っただろうか。
先輩は唐突にあのなっ、と切り出した。



「俺、・・・そのっ・・・・・・・・こ、告白しようと思ってるんだっ」



もう、本当、止めて下さいよ。風丸先輩っ。
痛い、痛い。心臓が痛い。
僕の思いはどん底だった。
頭を金づちかなんかで殴られたみたいだ。



告白したい、から・・・。その、女の子はどんな告白の方法が嬉しいのかな。



なんだか、少し目に涙が溜まるのが分かった。
何泣いてるんだ。
泣くな、泣くな。泣いちゃ駄目だ。
僕はあまり動揺を隠せて無いかもしれない。
だけど、いつもしてるみたいな、作りモノの笑顔という名の仮面を被った。



「どんなのが良いか・・・ですか?そんなの決まってますよ!
精一杯気持ちを伝えるんです。そうすれば、伝わります、必ず。
僕も成功するように祈ってますから!!」



頑張って下さい!、そう言ってポンと先輩の背中を押した。
ちょっと戸惑いながら、「ありがとう」と微笑まれた。



いってらっしゃい!



そう言って送り出した僕の顔は、上手く笑えていただろうか。
ぱたぱた、と走って去って行った風丸先輩から離れるように、僕は先輩とは反対の方角へと走り出した。



なんで、なんで最後の顔が僕の大好きなその笑顔何ですかっ!
ずるいです。
忘れたくても忘れられないじゃないですか。
僕のこの恋が、僕を悲しく、嬉しくさせるように。
風丸先輩のその恋も、先輩を一喜一憂させるんでしょう?


だったら強引に奪うなんてしません。
いや、・・・できません。
どんなに悲しくても、寂しくても。
それも恋ですから。


僕の恋が叶わなくても、風丸先輩はその恋を大切にして下さいね。



そうやって矛盾した感情で祈るしか、僕にはできないんだから。



もう絶対先輩には恋なんてしません。
気にしたり、しませんから。絶対に・・・!







      

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