イナイレ

□震えた声
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ずっと1人だと思ってた。


友達と居ても、埋まらない何か。
家族と居ても、埋められない何か。


心にはずっと何か穴があいていて、どうすれば埋まるのか。
1人、動けないまま試行錯誤を繰り返した。


何をやっても、誰と居ても、埋まらない孤独感。



"助けて"



何度そう言ったか分からない。
ココロの中でぽつりと呟かれるそんな言葉に、私はただなにも出来ないで待つだけ。


自分から動かなければ、始まらない。
そんな事を何度も聞いた。


分かってる。
分かってるんだ。
分かってるつもりなんだ。


ぽつり、と呟いた。







「誰か気付いてよ、・・・助けてっ」







そんな私の小さな本音に気付いたのは君だった。



「サッカーやってみろよ!元気になれるぜ!!」



ニッ、と笑って私にそう言って手を差し伸べてくれた。
サッカーなんて全然知らなくて、ルールだって分からない。
それにサッカーなんかで、本当に元気になんてなれるのか。
分からない。


円堂くんは、部屋のすみで1人座っていた私を見つけたくれた。


いつも家で1人で居た。
絶対誰も来ないって分かってたし、1人なのも分かってた。


だけど、円堂くんだけはよく私を構ってくれた。
家の中で1人こもっている私を気にかけてくれる。
こんな所に居るのに、気付いてくれた。
助けて、なんて本音、誰にも言えなかったのに。


それなのに、不思議だ。
円堂くんはそんな私の本音をいとも簡単に引き出してしまう。


他の誰でも無い、君だけがこんな私を見てくれた。



「行こうぜ!」



そう言って、手を引っ張られて家の廊下を駆けて行く。
目の前に見えるのは、私の手を掴んで走る君。
とんとん、とテンポ良く階段を下りて、また廊下を走る。


そして靴を履き替えて、玄関を出ようとした。





円堂くん、サッカーやる、って事は他にも人が居るんでしょ?
嫌だよ、怖いよ。私が受け入れて貰える保証がどこにあるの?


いやだ。外は怖い。
傷つく事ばかりだよ、外は。
怖い、逃げたい。1人の方が良い。


ぐっ、と足が止まってしまう。
なんでなのか分からない、ここまで順調だったのに。



「嫌だ、円堂くん・・・、外は、・・・怖いよっ」



私は君の手を握ったまま、その場にうずくまる。
ぎゅっ、と私の手に力がこもって、カタカタと震えだす。


そんな私に、大丈夫だ、と君は言った。
そして私の手に、もうひとつの手を重ねて優しく力を込める。



「お前は1人じゃないだろ!俺はココに居るぜ!!」



力強く、優しく君は言った。
本当は怖かった。
だって、私の大切な人が居なくなってから、外は敵ばっかりな気がしてたから。


1人になった私は、当然何もできなくて、怖くて、孤独で。
逃げたいと言う思考だけが残った。


怖い、嫌だ。そんな事しか考えられなくなっていた。



「えんど、くん・・」



1人は嫌だろ?と君は私に問う。



「いやだよ、」



変えたいだろ?そんな自分を。



「変わりたい、こんな思い・・もうやだよっ」



"だったら行くぞ!!"



にこっ、と笑って私の手をぐいっと力強く引っ張った。
私はただ、引っ張られる。


引っ張られた事で、私は必然的に立つ事になり、そのまま足を踏み出した。




本当に久しぶりに見た気がする。
きらきら、と輝く強い太陽に、人の声。



「きれ、い・・・」



ぽつり、と言葉が漏れる。
出てしまえば、なんとも呆気ない物だった。
確かにまだちょっと怖い。
だけど、ぎゅっと握られる手に、君が隣で笑っているのが分かった。



「ほら、出ちゃえば簡単だろ?行こうぜ。もっといろいろな物を見にさ!!」



あ、まずはサッカーか、と笑う円堂くん。
私はそれに、小さく、うん、と頷いた。










「お前は1人じゃないからな!俺が居るから!!!」









私はその言葉に、今までかんじた事の無い感覚を覚える。
とくん、心臓が大きく鳴った気がした。
私はされがどんな物なのか知らない。



だけど、今は君に言いたい事があるんだ。








「あり、がとう」







そう、震える声で君に言った。
その言葉に、どういたしまして、と嬉しそうに笑う君に、
私は心が温かくなるような感覚を覚えるんだ。





怖いなんて、臆病だった自分。
だけど、一歩踏み出すだけ。
そこには、きっと違う自分や、違う世界が待っていると思う。






(怖いなんてただの虚勢だ)


(本当は一歩踏み出したいだけ)








     
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