君と僕の間にあるモノ。

□勇気を持って欲しかった
2ページ/2ページ



その後、僕は優の病室を後にした。

もう今日は、とくに用事も無いので、そのまま家に帰ろうと思った。
だけど、僕はそこで、ある人を見つけてしまったんだ。

その人は、僕の学校の制服を着ていて。
誰だか一瞬で分かってしまった。
だって、僕の学校で、この人を知らない人はいないだろう。

その人の名前は、"温海 伊玖磨"先輩。
僕の学校の生徒会長だ。

僕は、どうしよう、と少し焦った。

なんで焦るの別に何もしてないじゃない。
いや。何もしてない事は無かった。

アツミ先輩は、普段からすごく厳しい先輩として有名で。
なおかつ、規則とかもしっかりと守ってる、とにかく完璧って言葉が似合う先輩なんだ。

そして、僕の学校の規則には、こんなものがある。



【平日の外出は、午後7時まで。それ以降は、なるべく出歩かない】



我ながら、結構厳しい学校だとは思っている。
だけど、やっぱり怒られそうで怖い。

だってアツミ先輩、厳しい人だし。


「帰れない、な・・・・うん」


見つからないように、コソコソ隠れて帰ろうか。
僕はそう思って、なるべく気付かれないように、急いで歩いた。

だけど、僕はふと、思ったのだ。
なんで校則に厳しいアツミ先輩が、こんな時間に、しかも病院に居るの。
僕は、ふと足を止めて、アツミ先輩の方を見た。

今まで、僕が居た所は、優の病室からすぐ近くなのだけれど。
アツミ先輩が、すごく真剣な顔で見つめる先には、内科病棟、の文字。

優も、内科病棟だけれども、少し場所が違う。
たしか、アツミ先輩の居る所から、少し行ったところには、手術室があったはずだ。

僕は、なんでこんな所に居るんだろう、とすごく不思議になった。

だけど、僕はアツミ先輩の表情を見て思ったんだ。
あの顔は、何か簡単なモノでココに居るんじゃない。
本当に、すごく深刻な事があった時の表情だ。


「あっ、あの・・・・っ!」


僕は自分でも知らないうちに、アツミ先輩に声をかけていた。

声をかけられたアツミ先輩は、ひどく驚いた顔をしたけれど、すぐにほっ、と息を吐いた。
僕は、一瞬怒られるか、と思ったけど。

アツミ先輩は、怒ったりしなかった。
むしろ、なんだか悲しそうに、微笑んだ。

僕は、えっ、と思ったけれど、アツミ先輩が今日もお見舞いか、と言ったので、
僕のその思いは言葉にはならなかった。


「お前は・・・弟さんのお見舞い、か?」

「は、はい」


アツミ先輩が、そう言った時に、僕は少し疑問を感じた。

なんで僕が、弟のお見舞いに来た事知ってるの?
僕は、なんで、と聞くと、俺は生徒会長だから、一通りは把握してるんだ。
とアツミ先輩は言った。

すごいな、と思いながら、僕はアツミ先輩はなにをしてるんですか?と問い掛ける。

すると、少し深刻な顔をして、僕から視線をそらすんだ。
何があるんだろう。




「俺の母親がな、今日手術なんだ」




アツミ先輩が、不安そうな顔でそう呟いた。
それに僕は、え、と思った。

だってアツミ先輩のお母さんが、そんな風になってるなんて聞いた事も無かったから。
きっと誰にも言わないでいたんだな、と僕は思う。

そして、母親、と聞いて、僕は自分のお母さんを思い出すんだ。

いつも笑顔で、あたたかくて、優しい存在。

僕の記憶の中のお母さんは、そんな人。

だから、僕はアツミ先輩にこう言ったんだ。


「大丈夫ですよ。きっと成功します」


だから、先輩がそんな風にしてたらダメです。
そう言って、頑張ってにこり、と笑って見せる。

そうだよね、大好きに存在が、かけがえのない存在が、居なくなるなんて。
それ以上に怖い事は、きっとない。

だから僕も、今少し泣きそうなんだ。


「でも、すごく難しい手術らしいんだ・・」


アツミ先輩は、どうすれば良いのか分からないと、言う表情をする。
僕は、信じて待っていれば良いんです、と。
なんの迷いも無く言い切った。

だって、僕は優が死ぬなんて思ってない。

こんなところで、優と重ねるなんて、ちょっといけない事だと思った。
だけど、やっぱり僕が信じてるから、優は生きている。

僕には、病気を治す術なんてないから。
だから信じるくらいしか出来なくて。

だけど、信じていれば。
いつかはきっと、と思う事もある。

気休めかもしれない、だけど・・・。


「手術が難しいものだったとしても、大丈夫ですよ。

先輩は、信じて待っていてあげてください」


僕は、にこり、と笑う。
アツミ先輩は、まだ信じていれば大丈夫です。
きっと、嫌な事にはなりません。

ねえ、だから頑張って下さいよ。

僕は、会っていきなりこんな事を言うのも生意気かもしれないけど。
だけどそれでも、伝えたかったんだ。


「信じていれば、大丈夫です」


僕がそう言うと、アツミ先輩は、少し戸惑っていた。
それに、僕ははっ、と我に帰り、先輩相手に生意気に事言ってしまった、と後悔した。

なんだか怒られそう、そう思ったのに。







「ありがとう」





そう微笑んでくれた。
僕は少しびっくりしたけど、アツミ先輩がなんだか嬉しそうに笑ってくれたから。

まあ、良いか。

そう思ってしまった。
だから、僕も祈ってます、手術が成功するように、とだけ言い。

アツミ先輩に、すみません、と言う言葉と。
もう帰りますと言う事だけを告げて、帰ろうと思った。


「それじゃあ、失礼します」

「ああ。あんまり遅くならないうちに帰れよ。



"ありがとな"」




僕は、そんなに感謝されるような事はしてないのに、と少し照れた。
だけど、少しだけ嬉しかったから。

人の役にたつって、それがどんなに小さな事でも嬉しい。

僕は、アツミ先輩とお別れして、急いで帰ろうと家路につくのだった。





心にいっぱいの、嬉しいと言う気持ちが溢れた。


「どうかお願いします。救って下さい、神様」


神様にお願いなんて、あんまり僕らしくない。
だけど、とにかく祈る。

だって、人が死ぬのは、すごく嫌だから。



「がんばってください」


        






      

    
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ