恋に落ちた海賊王A

□jet-black scorpion -束の間の静寂-
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  束の間の静寂。


 ジーニは、忌々しく棚に目をやった。
ネズミが足元を通り抜ける前
もしかしたら、この棚の奥に人が隠れているかもしれないと
直感的に感じてはいたが
ビッケの悪辣さを知っていたので、気付かぬ振りをした。

が、こうなってしまっては、気付かぬフリはもう出来ない。

ビッケは、乱暴に棚に並んだ瓶を払い落とし
棚を蹴り上げてはミミィの隠れた場所を露にしていった。


  もうダメだ!!

ミミィは、取り払われる棚を見て覚悟を決めると
狭い棚の後ろへの出入り口から抜け出し
廊下へと逃走を試みることにした。

  甲板まで行けば、みんながいる!
  ここで捕まるより、マシかもしれない・・・

小さな希望を胸に、ビッケの蹴り上げる棚からスルリと抜けて
ミミィは倉庫の扉に向かい駆け出した。


「ピュ〜!」
小さな口笛が聞こえた気がした。

途端に、ミミィの身体は宙に浮いていた。

次の瞬間ミミィの身体は
2人に荒らされ散らかっている床に叩きつけられていた。

「・・・っつ!」
状況が理解できなかったが、首に違和感があり
床に打ち付けた肩や肘が痛んだ。
恐らく、髪を掴まれ、強く引き倒されたのだ。

這いつくばるように、痛む身体を持ち上げ
背後にいる2人から逃れようと、自然に身体を前に進めた。


「お嬢ちゃん、こんな所に隠れてたのかい?
お兄さんは、随分探したんだよ?」
優しげな声で、しかし嘲るようにミミィに声を掛ける。

シャリン と、淡い金属音が響いた。

「・・・ビッケさん! ダメです!無傷で連れて行かなきゃ!!」
「ボウズ、黙ってろ」
「・・・!」
低い声で、仲間であるジーニを威圧する。

背後の遣り取りを気にしながら
ミミィは少しでも2人から距離を取ろうと
壁に向かっていた。

ダン!

ミミィの顔の直ぐ横を鋭い光が通り過ぎ
壁に大きな音を立てて剣が刺さった。

「ひゃっ!」
驚いてミミィは後ろを振り返ると
極近に不吉に笑う男の顔が迫っていた。

「! イヤッ!!」
ミミィは頭を抱え込むように身を引いて
その男から少しでも離れようとするが
それよりも早く右腕を掴まれ、逆に近くに引き寄せられてしまう。

「よぅ、お嬢ちゃん! 近くで見ると可愛いなぁ〜」
息が掛かるほどに顔を寄せられ、ミミィは俯きながらその顔を避けるが
腕を掴んでいるのとは反対の手で顎を持たれ
前を向かされる。

値踏みをするように角度を変えてじっくりと観察をされる。

「は、離し、て!」
ミミィは必死に声を振り絞って男に言う。

「ビッケさん・・・そろそろ引き上げた方が・・・」

少年が恐る恐る声を掛ける。
「直ぐに済む! なぁ、お嬢ちゃん?
ちょ〜〜っとだけ楽しんでからイイトコロに連れてってやるからな?」

ビッケは、近くで見たほうが端整な顔つきだった。
顔に傷があったとしても、モテそうな風貌だが
やはり、ニヤけた表情でその良さを全て打ち消している。

「お嬢ちゃん、ココの船長の女か?」
顎を掴んでいた手が耳朶を弄り項へと指を運んだ。

「!!」
ミミィは震える身体でその手を避けようとするが
身体を引くと髪を掴んでより自分に近寄せた。

「リュウガは女好きで有名だモンな〜〜
毎晩、良い思いしてんだろ?」
腕を掴んでいた手が離れたと思うと襟元に手を置いた。


 
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