☆バックナンバー U☆

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  東日本大震災で
  被災された方へ
  お見舞い申し上げます




「あれ、何ですか?」
私は舵を取るシンさんの袖を掴み
暗い海原に漂う、小さな明りを指差した。

「・・・さあな?」
さして興味なさ下に一瞥しただけで
直ぐに舵へと向かってしまった。

私は、その小さな明りが気になり
船から身を乗り出すようにその明りを見た。

光る魚やイカ、他にも何だか良くわからない生物がいるって
聞いてはいたが、そんな風には見えなかった。
波の上を、滑るように、漂うように
ユラユラと、フワフワと
何だか不思議な動きでそこにいた。

「あ!」
私は夢中になってその明りを見ていたら
乗り出した身体を支えていた手が滑り
グラリとバランスを崩して海に身体が吸い込まれそうになった。

「おい!!」
シンさんの声が背後で聞こえたが
私の身体はそのまま海に近付いて行った。


  ・・・ユラリ・・・


海に飲み込まれそうになったその時
小さな明りが揺らめき無数の光になって
私を包み込んだ。


「・・・え?」
海に落ちかけていた私の身体は
いつの間にか元の船上にあった。

「大丈夫か!?」
シンさんが心配そうに私の身体を抱き留め
顔を覗きこんできた。

「・・・どうして?」
少し呆然として呟くと、シンさんが静かに海を見る。
つられて私も視線をやると
私を包み込んだ明りが海から空に向かって
スゥッと溶け込むように昇っていっていた。


「海にいると、不思議なことがよく起こる」
シンさんが静かに空を仰いだ。
「酒の席で聞いた話だが
海で死んだ者の魂が
小さな明りになって海に漂うことがあるそうだ。」

私は、波間に目を向けて、そこから昇ってゆく
優しい明りを仰ぎ見た。

「卑しい心に触れれば、魂は永遠に海を漂い
優しい心に触れれば、魂は天に昇る。
実しやかに話していたが、まんざらでも無いかもな
お前の心に触れて、天に行っているのかも知れない」

シンさんの声が、心地良く私の耳に届く。

「私を、助けてくれました」
私はシンさんを振り返り、自然と笑顔になっていた。
「私の心が優しいんじゃなく
あの明りが優しかったんです!」

シンさんはフッと優しい微笑を浮かべ頭を撫でる。

暗い海の上で2人、優しい明りを見送った。

安らかでありますように。
自然にそんな祈りが心におこっていた。





  お亡くなりになった方の
  ご冥福をお祈り申し上げます。

      11・3・15 miy

 
 

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