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□拍手お礼SS
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  拍手お礼SS


    ☆Honey Moon☆


 シンさんと結ばれてから初めての満月は
小さな港町で迎えた。


「今日の宴はこの街いち番の酒場
ムーンライトでやるぞ!」
船長が停泊の準備をする皆の前で
大声で宣言すると

「ムーンライト・・・って、酒場と言うより・・・」
言葉に眉を寄せてソウシさんが私を見た。

「??」
私は首を捻りながらシンさんを見ると
シンさんも同じように渋い顔をしていて
私は不思議に思いシンさんの上着の裾を引いた。

「ムーンライトが、どうかしたの?」
小声で訊ねるとシンさんが答える前にハヤテさんが
「え〜〜〜! あそこ、女が煩くて
思う存分飲み食い出来ないっすよ!」
と、不満そうに言うのを聞き、何となく女性の多い店だと察してしまった。

「そう言うな! あそこの女は美女ぞろいだしな!」
と、船長は満面の笑みを湛えていた。

シンさんを見上げると、小さく溜め息を吐くのが見えた。

「そうだシン!」
「なんです?」
笑いながら船長はシンさんの方に歩み寄り
「最近ここいらは、留守船を狙って盗みをする不逞ヤロウがウロついてるらしい!」
「そんな話、聞いたこと無いです!」
「言ったことも無ぇからな!」

船長は顎を撫でながら、真面目な顔になる。

「宴だから、全員参加にしたいんだが・・・
今回はお前、シリウスで留守番してくれなーか?」
「はぁ? そんなのトワにやらせりゃ良いんじゃ・・・」
「トワじゃ頼りね〜だろ!」
ハッキリ言い切る船長に、ちょっと離れた所からトワくんが
「船長! ヒドイです!!」
と抗議している。

「・・・シンさん、留守番、ですか?」
私が船長を見上げながら問いかけると
「ぉお、お前も一緒に残ってもいいぞ?
シンが1人で可哀想だと思うならな!」
と、大声で笑い出した。

「の、残ります!」
私は勢い良く返事をすると、シンさんがオデコをパチンと叩いた。
「あイタっ!」
「勝手に返事してるな!」
シンさんは、さっきより渋い顔をしている。

「・・・ダメでしたか?」
上目遣いに見上げると、ジッと私を見てから
「好きにしろ」
と、そっぽ向かれてしまった。

「船長、良いみたいなので2人で残りますね!」
私は、2人きりになれる事が嬉しくて
思わず声が弾んでしまう。
「ハッハッハ! シン、お前より正直だな!」
船長がシンさんの肩を叩いて、港を見る。

「よし、着いたな!
ヤロー共準備は良いか?」
「おぉ〜〜!」
船長は既に気持ちは酒場に行っているようで
着岸すると直ぐに船を降りてしまう。

「シン、悪いけどよろしく!
場所も場所だし、皆で行くより良いかもしれないよ」
ソウシさんがニッコリと微笑みながら船長の後を追った。

「何だか知らね〜けど、美味しい料理あったら土産にして持ってくるからな!」
ハヤテさんは私にそう言い、トワくんは
「ぼ、ボク、頼りないですか?」
と、少し悲しそうな顔で船を降りて行った。

「・・・変だな? 昨日までは船上で宴をやって上陸するって言ってたのにな?」
ナギさんはシンさんの近くに来て首を捻っていた。
「あぁ、急に思い立ったんだろ?」
と、シンさんは苦笑いをすると
「そうかもな・・・ っつーか、宴の準備進めてたから
料理はキッチンにある程度揃ってる
悪いが、自分達でテキトーに食ってくれ!」
と、ナギさんも船を降りて行った。

「・・・皆、行っちゃいましたね」
私は手を振りながら皆を見送り
姿が見えなくなった頃シンさんを見た。

「何を考えてるんだかな・・・」
と、シンさんは私の肩を抱いてキッチンに向かった。
「もうゴハンですか?」
「どんな料理があるか確認に行くだけだ」

時折私の髪を撫でながら、肩を抱いたままシンさんは歩く。
何だかソレが嬉しくて、私はシンさんにピッタリとくっ付いて歩いた。


キッチンでシンさんがオーブンや鍋の中を確認している。
私も冷蔵庫を開けるとシンさんが
「妙だな・・・」
と、呟いた。

「どうしたんです?」
「あぁ、量が少ない! これじゃ、全員分無かったぞ?」
と、私の方を見た。

「あの、こっちも変なんです・・・」
冷蔵庫を広く開け、私もシンさんに告げる。
「何だ?」

「あの、たぶんサラダなんですけど・・・
手抜きみたいで・・・」
言いながらシンさんに向かってサラダボールを差し出した。

「!!」
シンさんは私の差し出したボールを見て目を見開き
「はっ! あははは・・・!」
と笑い出した。

私が驚いた顔で見ていると
「Lettuce alone」
と私の耳元に囁いた。

ゾクリと震えて、目をつぶると「フン」と
鼻で笑うのが聞こえ
そっと目を開く。

息の掛かるほど近くにシンさんの顔があって
その顔は優しく、楽しげに笑んでいた。

「何かあるとは思ったが、オレ達は騙されたようだな」
「え?」
「ハネムーンサラダ」
「ハネムーン?」
シンさんの言葉に小首を傾げる。

「レタスだけ、Lettuce alone・・・」
「レタスアローン・・・」
私が呟くと、その言葉を飲み込むように
私の唇を優しく奪う。

「Let us alone」
唇を離し、シンさんが言う。

「・・・私達、だけにして?」
私が言うと、また唇を重ねる。



キッチンの窓から満月が見える。


いつまでも続く、蜜月の月。






   ☆end☆

      11.5.22


 

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