long story*12/31姉僕8UP*
□姉さんと僕 3
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「黒沼爽子さん」
そう聞いた瞬間歓喜に震えるからだとは対象的に俺の思考はストップしてしまった……――
姉さんと僕3
―何度も何度も何度も記憶の中で心の中で追い続けてきた人が今目の前にいるという信じ難い現実に俺の思考回路に軽くハレーションが起きる。
「ほら〜!みんな爽子先輩が綺麗だからって見とれてないで自己紹介!」
「き、綺麗だなんてそんなっ」
「ははっまぁいいから!」
未だ固まったままの俺を余所に皆が自己紹介を始める。
「俺っ!城ノ内宗一!ジョーって呼んで下さい!」
「…真田龍。」
「安藤啓介です。俺らみんな三浦とは同じクラスで…」
「え…と、じょ…ジョーくんに真田くんに…安藤くん?」
一言ずつ確認するように名前を繰り返し、首をコテンと傾ける姿にジョーと安藤は顔を赤くしている。
(龍は…さすがと言うか少しも顔色を変えなかったけど…)
残すとこあと俺だけになってもまだフリーズしたまんまの俺を見兼ねて、隣に座ってた安藤が肘で硬直した腕をつついた。
そこではっと気を取り戻したものの名乗り出るだけの勇気が出ない。
自分のことをもし忘れていたら……そう考えると死ぬ程怖くなってしまって、声がでない。
そんな俺の心情を丸無視して三浦がいつもの脳天気ボイスで話しかけてきた。
「なに、風早まじで先輩に見とれちゃった?」
(うわ!!ばかっ!!)
三浦に名前を呼ばれてしまった以上、覚悟を決めて言うしか選択肢は……ない。
そう思い、チラっと彼女を見ると目をぱちくりさせている。
―…何も言わない彼女を見ると自分のことなどやはり覚えていないんだろう…そう考えただけで胸が張り裂けそうな気持ちになる。
(……覚えてる訳ねぇよな……9年も前のことなんか……)
泣きそうになる気持ちをなんとか噛み殺して、乾いた唇で声を発した。
俺が覚えてても向こうにとっては初対面みたいなものなんだからそれらしい挨拶をしなければな……
今まで何度も想像してきた。
彼女と再開する日のことを。
想像の中では彼女がだいすきだと言ってくれた最高の笑顔で
『久しぶり』と言う自分が確かにいたはずなのに……
―まさか、こんなにも切ない笑顔を浮かべることになるなんて思いもしなかった。