□キスをしたのは
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「すっげー…」


つい本音が漏れた。
目の前は色々な部活で穫ったトロフィや賞状。

あまりの数に、岳人はため息を吐く。


ここは立海大附属中。


今日は練習試合というわけではない。
文化祭に招待されたのだった。

誘ったのはテニス部一同。
すごい人口密度に疲れて、人混みを掻き分けてなんとか避難してきた。



「向日さん!」


元気な声とともに現れたのは赤也。
趣味が同じで、岳人にとっては可愛い弟みたいな存在。


「お、赤也!来てやったぜ」


赤也は誇らしげに柔らかい笑みを浮かべた。



「すんごい人の数でしょ?」

「ああ。すげー人数」

「一般人はざっと300人くらいかな」


たわいない会話を楽しみながら、二人はテニス部の教室へと足を運んだ。


「やあ向日。よく来てくれたね」

立海テニス部は、ライバル校の生徒である岳人を暖かく歓迎してくれた。


ちょっぴり苦手な幸村は、いつもと変わらない眩しい笑顔をしていた。


「うむ、向日。ゆっくりしていってくれ」

「うん。テニス部はなにやってんの?」

なぜか顔を赤くした真田に、岳人は問い掛けた。


「劇、白雪姫。ぜよ」


真田の代わりに答えた仁王。
岳人はいっそう不思議そうな顔をした。


「その白雪姫はだれがやるんだ?」



「「……」」


「な、なんだよ!?」



嫌な予感がする。
むしろ嫌な予感しかしない。




「どうせなら赤い髪の可愛い子がやるべきだよね」


と幸村。
赤い髪ってことは丸井か。
俺の気のせいか、良かった。


「やはり女性なのだから160センチ未満の方がよろしいかと思われます」


今まで黙っていた柳生が急に話し出す。
流石紳士。姿勢が違う。

……って。


「は!?」


丸井は確か164センチだとこの前聞いた。

俺の身長は…。




「……俺に白雪姫をやれと?」


「察しがいいね。
大丈夫、きっとドレスがとても似合うよ」


いや、ドレスの心配をしてる訳ではない。
本番当日なのにセリフを一つも覚えていない。

これはかなりまずいのでは。



「すまん向日…。一応止めたのだが」

「セリフは適当に言えばいいし、俺達もサポートするよ。君はとりあえずドレスを着てくれさえすれば大丈夫」


綺麗な顔立ちに笑顔を振りまかれる。
若干、真田の言葉が遮られたような。



「…他に誰か白雪姫のセリフ覚えてる奴はいねぇのか?」

「プリッ」



…どうしよう。

どうしようもない。


迷う時間もない。






…やるしか、ない。




 
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