□振り向いてほしい
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「振り向いてほしいぜよ」


「誰に?
前歩いてる奴なんていねーぞ?」





振り向いてほしい




「そうじゃなくて…」

「あ、俺クレープ食べたい!」


言葉を遮られるのは慣れっこ。
胸に残るこの蟠りは一体…?

今日は向日とデート。


デートといっても、俺が勝手に連れ出したんじゃが。


下心丸出しの俺と2人きりになるなんて、無防備にも程がある。


美味そうにクレープを頬張る向日の口元に付いたクリームを指で取って舐める。


「ば…っ!何すんだよっ!」


それだけで真っ赤になって怒り出す。

コロコロ変わる表情は面白くて、何度見ても飽きが来ん。




向日にとってはただの他校生でしかないんじゃろうが。

それでも、楽しそうなこの顔を見ると幸せで。


毒気を抜かれそうになる。



「次あれ行こうぜ!」

「お化け屋敷?確か向日苦手じゃ…」

「平気平気!んなもん全然怖くねぇよ!」



とか言っていたのに。



「大丈夫か向日?」

「む、むむ…無理…」



5分後には俺の後ろで震えている。




「可愛い奴…」


俺のこの呟きも、聞こえてないじゃろな。

でも良いんじゃ。今は。




「最後は観覧車だよな!」



高いところが大好きな向日。
観覧車が動き始めると、オレンジ色の空に映えて、向日が綺麗に映った。

この地上より少し高い位置。

コートのなかで向日は、いつもこの景色を見ているんじゃろうか。



「……楽しかったか?」



返事がないので向日の方を見やると、小さな寝息をたてとった。

この可愛い寝顔を目の前に、観覧車は頂点へと到達していた。






−−−今なら何をしてもバレない−−−





頭をよぎる言葉。


それでも手を出せないのは、


汚れを知らない好きな人を、


傷付けてしまう、汚してしまうかもしれないから。




複雑な心境でその顔を見つめる。


そっと触れれば小さく身じろぎ、愛らしい。


夕日を背景にして、
こんなシチュエーションで恋が実ったら、
それはなんてロマンチックなんじゃろう。



向日が気持ちに気付いてくれないもどかしさ。



このままこの寝顔を見つめて、何周もしていたい。



手に入らないイライラが拳を震わせた。







あーあ。

嫌になるぜよ。ほんとに。




今だけ、


たった1分で良いから。








「振り向いて…ほしい、ぜよ」




fin
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