□幼馴染の特権
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「がっく〜ん!遊びに行こ〜!!」


日曜日の朝っぱら。
大きな声が聞こえたのはジローの部屋だった。


「…ん?」


うるさい隣人の声に目を覚ました岳人は、手慣れた手付きで窓を開ける。

窓を開けたところに窓。
そしてその窓からはこちらに手を振るジローがいた。


隣の家に住んでいるので、こんなことは日常茶飯事。



「ジロー、朝からうるせー…」


寝ぼけ眼を擦りながら珍しく寝起きの良いジローに一言告げる。



「がっくん眠いの?」

「んー…」


昨日夜中まで起きていた岳人にとっては、今起きているのがやっとだった。



「なら一緒に寝ようよ」

「は?でもお前今眠くないんじゃ…」

「俺はいいの!がっくんの方が大事だから」



時折見せる大人びた表情が好き。
全てを飲み込むような、深い瞳。

幼馴染の顔なんて見慣れたはずなのに、
こんなにもドキドキするのは、

きっと思いが通じていることを知っているから。



「じゃあ、今からお前の部屋行くわ」


岳人なりの甘え。

ジローには、それが"お前の近くで寝たい"という意味だと分かっていた。



「じゃあがっくん」


両手を大きく広げたジロー。
それはまるで"おいで"と言っているようで。


その光景には見覚えがあった。



『がっくん!今から遊ぼーよ!』

『でも母ちゃんが家で大人しくしてろって…』

『バレなきゃ大丈夫だよっ!
ほら、おいで!』


そう言って両手を目一杯に広げたそジローを覚えている。


『無理だよ…怖い』

『大丈夫、絶対受け止めるから』


眩しい笑顔にはなぜか説得力があり、怖がりながらも勇気を振り絞って、その腕へと飛び込んだ。


『でき…できた…』

『ほら、できたでしょ?』



−−−−
−−−−−−−−


「だってがっくんには羽が生えてるもん」



目の前のジローに、ハッとした。


「確か、あの時もそう言ったよね」


朝日を浴びたジローは、まるで太陽みたいに眩しくて、ついボーっと見とれてしまう。


「……ほら大丈夫、おいで。」


あの頃よりも大きくなった掌。
胸の広さ。

今はあの頃より、もっと勇気が湧いている。

自分の家の窓を足場に、伸ばした飛躍力を生かして目一杯飛び込んだ。


「ほら、ね。飛べた」

優しい微笑みを浮かべて腕の中の岳人を覗き込む。


きっとジローには分かっていた。


岳人があの頃より高く高く飛べるようになることを。

あの頃よりもっともっと頼れる仲間が増えることを。


そして、隣に並んで人生を一緒に歩むことを。



「がっくん、好き」

「…うっせーよ」


真っ赤になる岳人に、優しく唇を寄せる。

「俺も好き」

強く抱きしめられているため、
腕に収まっている岳人の顔は分からない。

でも、だいたい予想はつく。


「昔から一緒にいる幼馴染の特権だよね」



小さな頃から見てきた表情の変化。

今の表情はきっと……。


それはジローにしか分からない。


fin
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