□良い奴の仮面
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「……え?今、なんて…?」

「別れようぜ…俺ら、続かねーもん」



大好きな向日の言葉が、深く突き刺さった。



良い奴の仮面



全国大会の直後、退院したての俺に、向日はそう言った。

真っ直ぐな瞳が、冗談じゃないことを知らせる。
別れようなんて、そんな馬鹿なことない。
これはきっと夢だ。夢に違いない。
そう思うほど空しくなって、涙が出そうになる。

でも、好きな人の目の前でそんなことできるはずもない。


「なんで…続かないって思うの…?」


声が震えてうまく喋れない。
息が詰まって苦しい、向日の顔を見れない。



「お前、良い奴の仮面付けてるもん」



良い奴の…

「仮面…?」


どういうこと?


向日は真っ直ぐ俺を見つめて口を開いた。


「お前が俺のこと大切にしてくれてるのは知ってる…。
でもそれじゃ友達だった時と何も変わんねーよ…」


そこまで言うとたちまち赤面する向日。


「お前…き、キスとか全然してくれねーし…それ以上だって…」


ついには言葉を詰まらせてしまった。



なんだ…そういうことか…。

俺は今まで向日を大切にしたいから、色々なことを我慢してきた。


そっか。そうだったんだ。


「もっと…素を見せてみそ…」


照れながら目を逸らす。
耳まで真っ赤にして、可愛い、

もう、我慢しなくてもいいんだ。



「じゃあ…遠慮しないよ?」


「いいって言ってんだろっ!
焦らすなするなら早くし…っ」

うるさい口を俺の口が塞ぐ。


初めてのキスは、ほんのり生意気な味がした。




「っ…不意打ちとかズルいぞ!くそくそっ」


きっと数秒後には、そんな声が聞こえてくるだろう。



 

そうだよ。
これからは素の俺で。

「良い奴の仮面」なんて脱ぎ捨てて。


それが向日の笑顔になるんだから。



fin
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