□巣立ちの時
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「がっくん、謙也はどないやった?仲良うできたか?」

「お前と全然似てねーのな!俺といてもつまらなさそうだったぜ?」


去年、寒い冬の夕方。
もう夜に近い空は真っ暗で、白い息と岳人の持つ携帯電話の画面の光しか見えないほどの帰り道。

思い出したような口ぶりで、忍足は震えた手に自分の息を吹きかけて問い掛けた。

岳人から返ってきたのは、予想外にも微妙な返事だった。
謙也と岳人なら仲良くなれるだろうと思って会わせてみたのに。

しかし岳人が好感的なようなのに、
謙也がつまらなさそうな態度をとっていたと聞いて、
よっぽど自分の見込みが外れていたと感じて、虚しくなった。

謙也がそんな態度をとるということは、岳人を好きになれなかったということ。

この2人はもう会わせないようにしよう。

そう心に誓った忍足だったのだが、



「なあ侑士ー。謙也の好きなものって何かわかる?」

「はあ?謙也の好きなものて。自分ら仲良かったん?」

「いや付き合ってるし」

「ええええええええええ!!??」


という会話をしたのは、先程の話の1年後だった。

3月に控える謙也の誕生日に備えて、今から計画を立てているとのこと。
忍足にとってはそんなことは頭に入らず、2人が付き合っていることで頭が混乱していた。


「いやいやいやいや、がっくん?いつのまに謙也とそんな関係になっとったん?おとん悲しいわ……」

「今年の元旦くらいってか、言ってなかったっけ?」


聞いていない、という意味を込めて、首を横に振った。
謙也の誕生日などしるか、そう思った。


「んー、やっぱり靴とかがいいかなー。あっ、でもあいついっぱい走るからすぐボロボロになるか」

笑いながら言う岳人に、忍足は謙也への怒りを覚えた。


「去年の冬にした話、覚えとるか?岳人?」

「ああ、謙也がつまらなさそうな態度とったって話?」


今度は、肯定の意味を込めて、縦に首を動かした。


「あれさー、俺てっきり嫌われてるのかと思ったら、俺に一目惚れして恥ずかしくてあんな態度とったらしいぜ?」


なんだ、なんだそれ。
なんだそのドッキリてきものは。

どっちも自分の身近な人物なのに、どっちも何も教えてこなかったことにショックを隠せない。

だが、今の忍足にとってはそのショックよりも、自分が今まで子供のように大事にしてきた岳人が、自分のもとを離れて一番渡したくない人物のもとへ巣立っていってしまったことの方がショックだった。


そう。今が巣立ちの時だったのだ。
遅かれ早かれこうなることは分かってはいた。
だが、それでも大事に大事にしてきた子供が親元を離れるのはつらい。

まさかのカミングアウトで大打撃。致命傷。


仲良くなれると思ってだめだった、
ダメだと思っていたら実は仲良くなっていた。

こんなに虚しいことはない。
しかし、心のどこかで自分の見る目を褒めている。

岳人が幸せならそれでいいのだが、
相手が相手だ。


「おーい、侑士!これからプレゼント買いに行くんだけど、迷うからついて来て」

「……おん」


気がつけば、岳人は忍足よりもだいぶ前の方へ足を早めている。


だが、返事だけして決して急ごうとはせず、携帯を取り出し、謙也にメールを打った。



“おまえ、良い恋人ができたな”と、皮肉を込めて。




fin.
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