□ボヤデレの王子様
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「やんなっちゃうよなー…。
なんで俺がわざわざ神尾の家に出向かなきゃいけないんだよ」



快晴の青空の下、爽やかな空気とは違い、どよんとした雰囲気を纏った青年。

不動峰中二年、伊武深司。

どうやら神尾の家で勉強を教えるようだ。

艶やかな髪を靡かせ、住宅街で一人、ぼやいていた。


「同じような家ばっかり…神尾の説明が悪すぎて俺が迷子みたいになってるじゃん」

誰も聞いていないのに、ただただ口を動かしぼやき続ける伊武を見つめる人影があった。



「何?お前神尾の家に行きたいのか?」


キョロキョロと周りを見渡す後ろ姿に声を掛けたのは。


「アンタ…確か氷帝の…」

「おう。向日岳人ってんだ。
不動峰の伊武…だよな?
なんだよ、迷子か?」


 
「…やっぱり、端から見ると迷子に見えてたんだ…やだよなー神尾の書いた地図が分かりにくいだけなのに」

「いや、どう見ても迷子だったぞ?」


ブツブツとぼやく伊武に、岳人は苦笑を浮かべた。


「神尾の家ならすぐそこだし、案内してやるよ」

「迷子じゃないんだけど…どうも」


それから2人は、たくさんの話をした。


ジローのクリーニング屋に神尾がよく訪れるので、岳人が神尾の友達だということ。

伊武がもっと怖い人かと誤解していたこと。
9割は岳人が一方的に伊武に話しかけているのだが。

伊武もその人懐っこい笑顔に、心地よさを感じていた。



「おーい深司!あれ、向日さんだ!」

「久しぶりじゃん神尾。伊武が迷子になってたから案内してやったぜ」

「迷子じゃないんだけど……」


また、ぼやきが漏れた。


「あー…この辺同じような家ばっかだからなー」

苦笑を浮かべた神尾がすかさずフォローを入れる。


「ごめん向日さん。こんな奴だけど、ホントは良い奴だから…」

「ん?ああ、大丈夫。お前の友達に悪い奴なんていねーから」


こっそりと岳人に謝る神尾。


「……なんか、ムカつくな。
さっきから2人でコソコソしてさ。
神尾は向日さんに近づき過ぎ…離れろよ」


ボヤキながら神尾から岳人を引き剥がした。


「もしかして深司、嫉妬ってやつ?」

「は?違うんだけど。
ただお前が向日さんと話してるとムカつく」


そういうのを嫉妬って言うんだけど。

言いかけて、急いで心の中にしまい込んだ。



空は晴天。

とびきり元気で人懐こい赤い髪に会った暑い夏。


神尾は新しい季節の訪れを感じた。


 
fin.
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