□別れのワルツ
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「向日先輩!」


名前を呼ぶといつもすぐに走ってくる。


「ほんとに暖かいです」


いつも嬉しそうに抱きついてくる。


「向日先輩は俺のです…」


真っ赤になって言うくせに、すぐ嫉妬する。



そういうのが、

いつの間にか当たり前になっていたのかもしれない。





別れのワルツ





そもそもこんな話が出たのは、些細な喧嘩だった。


「はあ?なんで侑士が出てくんだよ」

「二人は仲良しですもんね。どうせ高等部でも二人でダブルス組むんでしょう?」

「意味わかんねえよ!」


今は冬休み。
受験を目前に控えた時のことだった。

高等部に行く岳人と、
中等部に残る鳳。


また鳳の嫉妬から出た喧嘩。



「向日さんなんて…、

忍足さんのところに行っちゃえばいいんです!」


「…………」


「あ……」


言った後に気づいてももう遅い。



「え、その…ごめんなさ…」

「分かったよ。行けばいいんだろ?
お前がそのつもりなら別れてやるよ!」


腹を立てて走り去る岳人の背中を追いかければ、なにか変わったのかもしれない。

でも、今の鳳には出来なかった。
嫌われるのが怖かった。




もう、当たり前の日々は戻れない…─。




やがて雨が降り出し、雨音がそれぞれの場所で二人を包んだ。



「ワルツ…」


普段なら気にしない雨音も、こんなに静かじゃいやでも聞こえてくる。

その音がまるで、ワルツの三拍子を奏でているようで。




涙が一筋、頬を伝った。





fin
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