□幸せをあげよう
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「がっくん。口元、チョコついてるよ」

「え、まじ?」



幸せをあげよう



学校帰りに立ち寄った店で、チョコのたい焼きを頬張る。


こんな会話はありふれたもので。

彼女が口元のチョコを見つけられずに、彼氏がそれを取ってあげる。

この一連の行動はいわばお約束。



「お、ホントだ」



どうやって取ってあげようかと考えている間に、岳人は口元についたチョコを見つけてしまった。

ちょっと残念。

チョコを取るふりをして、岳人にキスをしてしまおうとか、そんなことを考えていたなんて言えない。

恥ずかしさと虚しさを隠すため、心の中で舌打ちをした。



「ねえがっくん」

「なんだよ?」


名前を呼ぶと昔から見てきた顔が返事をしてくる。

俺たちの関係が、まだ“幼馴染”な感じがして、少し複雑だったりする。

でも俺は、俺たちの関係が“恋人同士”であることを確認する術を知っている。


「岳人」

「……っ!」


効果音が付く勢いで、岳人の顔が赤くなった。


昔からの呼び方じゃなくて、たまには引き締まった呼び方で名前を呼んでみる。

そうすると面白いくらい可愛い反応が返ってくる。


「いきなりそんな呼び方するなよなっ!」


真っ赤な顔で本当に可愛い。


「いきなりじゃなくて前もって言えば大丈夫ってこと?」

「そ、そういう問題じゃ…」

「じゃあ、呼ぶよ」


自分のペースに岳人を巻き込んでいく。


「岳人」

耳元に顔を近づけて、岳人が聞きなれない呼び名を口にする。

かすかに岳人の肩が動いたのが分かった。


「なんだよ……」

「ちゅーしたいなぁ」

「は、恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ!」


拒まない俺の恋人。
口が悪いのはご愛嬌。
俺だけ見ていてほしい。


「さっきできなかったからね」

さっき、俺の企みが綺麗に折られたからね。
ちょっと仕返しのつもり。


俺はこうやって幸せをもらっているんだ。

だからね岳人。

俺も岳人に幸せをあげたいんだ。


この気持ちは、きっと重なった唇から伝わってるはずだよね。





「がっくんに、幸せをあげよう」

「…なんだよそれ」


微笑みかけてくる岳人の視線は優しい。

帰り道はまだ長い。
その間、いっぱい話したいことがあるんだ。

手をつなぎながら、風を体に感じて。



これからも、一番近くにいて、一番大切で、一番大好きな人。

小さい頃からいつもそばにいてくれた岳人に、幸せをあげよう。


岳人が笑ってくれることが、俺の一番の幸せだから。


fin.
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