H
□like→love
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「はあ?また1年に告白された?」
それは2年生になったばかりのこと。
同じクラスになった宍戸、岳人、ジローは昼食を食べている最中、
岳人の「男の後輩から告白された」という爆弾発言に、宍戸はつい大声を出して驚いていた。
「んー、なんか部紹介の時に一目惚れしたらしいぜ」
眠るジローを眺めながら平然と言ってのける岳人。
宍戸が「また」と言ったのは、一昨日にも男の後輩から告白されたからだった。
「なんでお前、女装なんかしたんだよ」
「仕方ねえだろ。跡部が納豆と唐揚げ1年分くれるって言うから…」
部活紹介で全校生徒の前で見事な女装を披露した。
あまりに様になっていたので、その岳人を女だと思い込み、一目惚れする男子生徒が大量に現れた。
岳人が男だと認識されてから、一目惚れした生徒は大分減ったのだが、男でも構わないという根強いファンが最近告白してくる。
食べ物でつられるなんて、まるで餌付けじゃないか。
その言葉をぐっと飲み込んだ。
「おーい岳人!またお前に用がある1年生が来たぞー!」
教室の出入り口付近に、仲の良いクラスメート。廊下には見覚えのない妙にそわそわした男子生徒。
岳人は昼ご飯を食べている手を止め、深い溜め息をつきながら立ち上がった。
「野郎にモテても嬉しくねーし……」
小さく、そんな呟きが聞こえた気がした。
しばらくして、腑に落ちない様子の岳人が2人の元に帰ってきた。
ジュースのストローに口を付けた宍戸と、相変わらず夢の中にいるジロー。
「……お前さー」
深いため息をつき、宍戸が切り出した。
眉間にはシワが伺える。
「もっとしっかりしろよ。
お前に振られる奴がどんな気持ちか考えたことないだろ」
「あ?」
岳人の大きな瞳がこちらを捉えた。
「何が言いてえんだよお前」
「だから!
お前後先考えずに行動しすぎなんだよ!
もっと他の奴のことも考えろよ!」
しまった。つい怒鳴ってしまった。
騒がしかった教室もピタリと静まり返り、痛いほどの視線が宍戸にぶつけられる。
「何でお前にそんなこと言われなきゃならねーんだよ!
大体…こんなことになるなんて予想してねーし…」
最初は吠えていた岳人も次第に目に涙を浮かべ、それを見た宍戸は、乱暴に自分の頭をかき揚げた。
「おい、ちょっと来い!
お前らジロー頼む」
「は?おい宍戸!離せよっ」
細くて小さな岳人の手。
触れてみて初めて分かる。
ずっと一緒にいたのに、もうここまで体格差がついているなんて。
そのままグイグイと引っ張り、屋上に続く階段まで連れてきた。
「いいか!聞け!
お前はもっと自分の見た目とか、そういうのに気を配れ!」
「はあ!?意味分かんねえよさっきから!なんでお前はイライラしてんだよ!」
俯いた状態の宍戸に、岳人は怒鳴りつけた。
理由も分からない理不尽な状態で文句を言われるのは、いくら幼馴染からの言葉でも許せない。
ハッと気がつくと、勢いよく両肩を掴まれてしまった。
「お前は……分かってないんだよ。
自分がどれだけ可愛い……、のか」
「……!!」
急に顔が真っ赤になる宍戸。
つられて岳人も、その表情と言葉に顔を赤くさせた。
「お前が可愛いから……、他の男も放っておかないんだよ。
だから俺は……お前が他の男から変な目で見られるのが耐えられないんだ」
「……っ」
駄目だ。どんなに探しても言葉が出てこない。
ずっと一緒にいた幼馴染に、そんな風に思われていたなんて。
きっと、宍戸が岳人に対して抱いている想いは。
自惚れでなかったら。
自惚れてもいいのなら。
岳人の目から、大粒の涙が一つ、落ちた。
そして、すぐに明るい岳人の笑顔。
「お前、俺のことどんだけ好きなんだよ。くそくそ…っ」
「うるせー。もう他の男に女装とか見せんな。
ただでさえライバル多いのによ……」
真っ赤な顔の宍戸。
つられて赤くなる岳人。
二人とも、照れながらも笑顔を浮かべる。
「好きだ、岳人。ずっと前から」
「俺もだ……亮」
ずっと言えなかった。
感情の変化。
気づいたのは遅すぎることもなく、二人をより一層、引き合わせた。
likeからloveの気持ち。
fin.