□先輩の背には羽が生えて 続
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「む、向日さん。あの、俺……えー、と。」


薄暗い器具倉庫の中で、突然のことだ。

鳳がいきなりオドオドし始めた。

最初はオバケでも見たのかと俺も少しだけ驚いたが、どうやら違うようだ。


「なんだよ?ハッキリ言えって」

「好きです!向日さんのことが大好きなんです!
俺と付き合って下さい!」



ネットを取りに来たことを忘れてしまうほどに、驚いた。


「…………お前、ハッキリ言い過ぎ……。」

男に告られるのは今まで何度かあったが。
まさか、こんなに近くの存在から好かれていたとは。

likeではない意味の好き。


「初等部の頃、向日さんのテニスを見たときに向日さんの背に羽が生えていたのが見えました」


告られるのはもう慣れているはずなのに。
こんなにも心臓がうるさいのは初めてだ。

それはきっと、鳳の目が本気だからだ。

真剣に、それでいて少し泣きそうなその顔に、断るものも断れなくなったんだ。


「……付き合ってみる、か?」

「……え?」


そんなこと言うつもりなんて最初からなかったのに。

なぜか冷や汗が頬を伝った。


「お試し期間ってやつ。
一週間付き合ってみて、俺がお前を好きになったらそのまま付き合う。で、ダメだったら…」

「この話は、なかったことになるんですね……」

泣きそうな震えた声。
勇気を振り絞って俺に挑んできた後輩。

正直、すごく可愛く見えた。



そんな取引をした俺たちの一週間が始まった。

長太郎は俺に名前で読んでほしいと言い、まず名前で呼ばせるようになった。

初めて俺に名前で呼ばれた時、真っ赤になっていてリンゴみたいだった。

今も名前を呼ぶ度に赤くなって面白い。


俺の手が届かないところは、全部積極的に手を伸ばしてくれた。

俺にとっては嫌味にしかならないが、それを感じていない長太郎が可愛かった。

いつも俺を褒めてくれて、いつも俺の話す相手に嫉妬をして、いつも俺と一緒に帰った。

そして最終日である今日も、一緒に帰った。

帰り道、話したがりの俺の言葉に耳を傾けて、頷いてくれた。

俺も俺で、どういう話なら長太郎が1番喜ぶかなとか、そんなこと考えるようになって。

そんな自分を苦笑した。

認めたくないのに、ほだされている気がして。

とっくに自覚しているくせに、認めるのが怖くて悔しくて。


一人悶々と考えていたら、長太郎が俺の顔を覗き込んで、大丈夫ですかなんて心配してくれるものだから。



あーあ。顔が熱い。



家まで送ってくれた長太郎は、もうすぐ俺に振られるか、振られないか、それを感じて気が気でない様子。



雰囲気が、とうとう「長太郎からの告白に対しての返事をする時」になった。なってしまった。



「あの、向日さん。
俺、あの時から気持ちは何も変わってないです。
むしろ強くなりました。本当に本当に向日さんがすなんです。
だからあと一日だけ、この関係でいたいんです。お願いします…!」


驚いた。

こんな中途半端な関係、辛いに決まってるのに。
それでもコイツは俺の側にいたいと言うんだ。


どうしようもない気持ちが込み上げてきて、胸がうるさくなって。

顔が熱いのを抑える術が見つからない。


俺ももう、あの時のような余裕は一ミリも持ち合わせていない。


「……一日だけで満足なのかよ、お前は」

「……満足できないです」


あの時と同じ泣きそうな顔から、ついに泣き出してしまった。

俺のいっぱいいっぱいの告白は、鈍い長太郎でも受け取ってもらえた。


くそくそっ!
また思ってもないことを言ってしまった。

本当はもっと意地悪してみたかったのによ。

まあでも、コイツの新しい表情がみられたからいいか。


こんな図体のデカい男にそんな感情を持つ俺は、相当やばいのだろう。



fin.
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