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□お昼休みを君と
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屋上は暖かい。
ここまでたどり着くまでに何回か寝ちゃったけど、ようやく着いた。
春風が暖かい。
重たい瞼に抗うことなく、俺は眠りに就いた。
─────
─き…ジ…!─
─起き…ロー…!─
馴染みのある声。
俺の大好きな人の声。
この声は間違いなく、
「…がっくん……?」
「お、起きたか」
目を覚ますともうお日様が真上にいなくて、夕方になっていた。
「跡部がすっげー怒ってたぞ」
「…部活…」
寝ぼけてる目でがっくんを見つめたら、あることに気付いた。
「今日は樺地じゃないんだ」
「ああ、樺地が起こしに行ったけど起きなかったらしいから」
がっくんは「跡部に指名された」と続ける。
なるほど。
俺ががっくんのこと好きなの、知ってたんだね。
ちょこっと跡部に仕返ししてみようかな。
「ねぇねぇがっくん、あと5分だけ一緒に寝ない?」
「はあっ?跡部ますます怒るぜ?」
それでいい。
跡部には悪いけど、もう少し岳人と居させてもらうよ。
岳人は優しいから、幼なじみの俺の頼みは断れないはず。
「…しょうがねぇな。
5分だけだからなっ?」
「うんっ、俺嬉C〜!」
やっぱりね。
がっくんなら折れてくれる。
よし、あと5分だけ寝よう。
って言っても、緊張して寝れないんだけどね。
「……」
隣を見ればがっくんはもう眠りに就いている。
疲れてたのかな。
あと5分。
この寝顔を眺めてるのも悪くない。
「…ねぇ岳人」
返事が来ないことは分かってる。
だから伝える。
今しか言えない言葉。
「俺ね、岳人のこと好きになっちゃったんだ」
校舎の下からはテニスボールを打つ音。
お昼の春風もない。
あるのは、幸せな時間だけ。
「だめな幼なじみでごめんね」
小さな頃から見てきた赤い髪に触れた。
昔と変わらない柔らかい髪。
「……幼なじみとしてでいいから、明日のお昼休み、俺と一緒に寝て欲しいな」
無理だって分かってる。
岳人はいつの間にかみんなの中心にいて、[幼なじみ]なんて肩書きも意味ないくらい遠くに行っちゃった。
近いのに遠い─。
それでも、近くに岳人が居ればそれで良いと思ってしまう。
振り向かせる力が俺にまだあるのなら、
最後に一度だけチャンスを下さい。
「明日のお昼休み、一緒に寝て下さい…」
俺の言葉はオレンジ色の空に消えた。
同じことを二回言っても変わらない。
だけど、俺の中の何かが動く気がして。
ほんの少し期待してる。
明日、岳人が屋上に来てくれたら。
最後のチャンスとして、
俺は気持ちを告げようと思う。
自信はないけど、
「……明日、絶対絶対来てね」
神様、俺に最後のチャンスを下さい─。
お昼休みを君と。