□向日さんとキスをしてしまいました
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「……っ」

「あ…の…、」


「…あれ、…二人共何やってんの…?」


「「……っ!!」」




向日さんとキスをしてしまいました








やばい。
この14年間で1番やばい出来事。


事故とはいえ、
向日さんとキスをしてしまった。


そして何よりまずいのは、
眠りから覚めたジロー先輩に見られたかもしれないということ。

寝ぼけ目だし、大丈夫だとは思うけれど、やっぱり怖い。

ジロー先輩はキョトンとしていた。



最初はただ、部室の掃除をしていただけだった。

ちり取りをしていた俺。
それを見る屈んだ向日さん。


二人同時に振り向いたものだから、
一瞬唇が当たってしまった。




「ごめん…っ」


「向日さ…っ」



恥ずかしさのあまり、向日さんは走り去ってしまった。



「なになに〜?
がっくんと喧嘩でもしたの〜?
あ、もしかして修羅場だった?」


「そ、そんなんじゃないですっ!」


ある意味そうなんだけど…。



とりあえず、ジロー先輩が何も見てないってことは分かった。



よかった……。
ほんとによかった……。





忍足先輩や日吉に知られたら……、



考えるだけで怖い……。






向日さんも、こんなこと他言したりしないだろう。


ジロー先輩も見てないみたいだし、
このまま黙っていれば全て丸く収まる。

そうだ、このまま胸にしまっておけば…。


全部なかったことに出来る。






「駄目でしょ〜!がっくん虐めちゃ!
修羅場なんて…幼なじみとして見過ごす訳にはいかないよ〜?」


ジロー先輩は完全に目覚めたらしく、
大きなくりくりした目を瞬かせた。



「ねぇ、良いこと教えてあげるよっ」


「……?」



良いこと?



「泣かせちゃったなら、すぐに追い掛けた方が良いよ〜?
がっくん、ああ見えて寂しがり屋だから」


「……ッ!」



そうだ。
向日さんがもし泣いてたら、それは間違いなく俺のせい。

謝らなきゃいけない。



「…ジロー先輩。
ありがとうございますっ」


先輩に言われた通り、俺は追い掛けることにした。





「…もう一つ」


部室を出ようと試みた時に、ジロー先輩が口を開く。



「…もう一つ。良いこと教えてあげる」
「まだ、何かあるんですか?」






「………俺ね。












口は堅い方なんだ。だから安心してね」








一瞬。

背筋が凍るかと思った。




振り向いたら、ジロー先輩は不敵な笑みを浮かべていて、
それが恐さを手伝っていた。



「…あ…りがとう…ございます…」



その場から早く逃げたくて、お礼をするとすぐに部室を出た。



あれは本当にジロー先輩?
あんなに怖いのが。

ジロー先輩はもっとほんわかしてて、とてもいい人。





まさか、


見られてたなんて。







頭いっぱいに広がる不安と、胸いっぱいに広がる息苦しさを振り切るように、

俺は力いっぱい走った。





 
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