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□好きと普通の境界線
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俺には唯一でけへん物真似がある。
「もっと飛んでみそっ」
あのアホみたいに跳ぶ赤髪。
おかしいわ。
同じ三年とは思えへんほどのチビ。
同性とは思えへんほどの女みたいな顔。
男のくせに奇抜で変な髪。
顔に似合わん低めの声。
ただの変なアホや。
「…って」
俺は小春との練習中に何他の奴のこと考えとんねんっー!!!!
「どしたのユウ君?考え事〜?」
「い、いや!なんでもないで!」
アホか俺。
大事な小春に心配かけてしもたわ。
せや。
第一、俺には小春がおる。
他の奴なんて興味ないんや。
と言いつつ、内心あいつのことばっかり考えとる俺がおる。
あー…なんやイライラしてきた。
「ユウジ、それ一目惚れ言う奴やろ」
「うおぁあああっ!?」
ビビった…白石か。
「お前、さっきから心の声漏れまくっとるで」
「う、嘘や…っ!どの辺から!?」
白石はニヤニヤしながら答えた。
なんやねんコイツ。
「ほんまやてっ。
確か、[あのアホみたいに跳ぶ赤髪]とかなんとかからやな」
「……嘘やろ」
体中の力が抜けてくのが分かる。
まさか口に出しとったとはな。
ってことは……。
「小春にも聞かれとたんかぁああ!!」
後ろを振り返ると嬉しそうな顔をしとる。
「ユウ君が一目惚れなんて…、
そないなこともあるんやねっ」
「そんな…小春ぅっ!
てか白石!一目惚れてどういうこっちゃ!」
白石は相変わらずな顔しとる。
ごっつムカつくやっちゃな。
「そのまんまの意味や。
チビで赤髪で女顔…、
これて昨日練習試合した氷帝んとこの向日と違うん?」
「う…、うっさいハゲ!」
走ってその場から逃げた。
肩で息をしながら、夕日を見つめる。
何やってんねん俺。
「…格好悪」
あかん。
また心の声がでてもた。
向日は普通。
昨日の練習試合で知り合った他人。
それだけや。
それだけやのに……。
なんでこんなに俺の心ん中におるん?
俺の好きと普通の境界線。
越えてへんはずやのに。
あのアホが言った言葉が離れへん。
『俺の物真似、やってみそ?』
でけへん。
できるわけないわ。
コートの上を跳ぶアホの真似なんてできるわけない。
「……あ。そうか」
なんや。そういうことやったんか。
「……境界線。
とっくに越えとったんやな」
夕日が境界線に沈むとき、
俺は恋を自覚した。