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□独り言~財前side~
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「あ、向日さん。
豆腐買い忘れましたわ」


「あっ!」


独り言




今、向日さんと夕飯の買い物に来ている。
大学の帰りに寄ったスーパーで、買う物は買ったつもりだったが、買い忘れた。



「麻婆豆腐なのにメインの豆腐買い忘れるなんてなー…」


疲れきった向日さんは面倒臭そうに言う。
今日も大学の授業中、跳びはねて怒られていた。
それが疲労の原因かも知れない。



「自業自得っすわ」

「うっせー!俺は跳びたかったから跳んだんだよ!」



それがいけないと言っているのに。
困った人だ。
この人を追い掛けて同じ大学に入った俺も人のことは言えないか。





「…ホント馬鹿」


「なんか言ったか?
てか丸聞こえだったぞオイ」


あ、やっぱり聞こえていた。




「ただの独り言っすわ」




夕日を背に、スーパーへの道を引き返す。
目の前には影が伸びていて、季節の変わり目を体感する。



「…おい財前」

「?」


向日さんの足が止まった。
名前を呼ばれて振り向く。




「ずっと一緒にいような」



「……へ?」



人間は想定外のことがあると、無意識に声を発してしまうらしい。
まさに今の俺。

2秒ほど間を置いて、ようやく反応を示した。




「ただの独り言だよ」



向日さんは笑ってそう言った。
夕日を受けて、その綺麗な顔が映えている。

きっと向こうから見た俺は、逆光で表情が分からないはず。


独り言じゃないくせに……。




「……嫌でも付き合ったりますわ」



慌てて独り言だと言い訳をすれば、また彼の笑い声が聞こえた。

"こういう事"を言えるのは、
"こういう時"しかないから。





だって今ならこの真っ赤な顔、見られんもんな?


 
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