□悪いのは俺じゃない
1ページ/3ページ


「跡部のぶあーか!!」

「うっせぇこのみそ野郎!」

「んだとぉ!?この水死体!!」

「アーン!?俺様はまだ生きてる!」




今日も氷帝テニス部は賑やかだった。


「また喧嘩してるよ」

「激ダサだな」


滝と宍戸は顔を見合わせ苦笑する。
最近ではほぼ日常茶飯事なことになってしまった二人の喧嘩。


「落ち着いてやっ」

そこに忍足が割り込む。


「なんでいつもいつも喧嘩しとるん?
てか自分らほんまに付き合うとるんか?」

「「付き合ってる!」」


息ピッタリに断言する二人。
それにより、部員達が和んだ。


「なんだかんだ言っても両想いなんだよね〜」


珍しく起きているジローも幸せそうに笑う。
そんなジローを二人は同時に睨み付けた。



「やっぱり仲良C〜」


柔らかく微笑むジローに、二人は顔を見合わせ、照れ臭そうに顔を赤くする。






「クス…ねぇ跡部。今日の部活は何をすればいい?」


滝は不適な笑みを浮かべると、今日の練習メニューの内容を尋ねた。


「今日はメニューAだ」


跡部は簡潔に済ませる。
滝は微笑んだまま、メニューAと書かれたバインダーを持って行く。



「みんな、練習するよ。早く外に出て」


跡部と岳人以外の部員に呼び掛け、滝はいつの間にか寝ていたジローを立たせる。


「ほらっ、ジローも」

「ん〜…分かった〜…」


ジローは素直に起き上がると、よろよろと外に出て行った。


「部活に私情を挟むとは…。
俺が跡部さんに下剋上できる日はそう遠くないですね」


嫌みを交えながら、日吉も退室する。



「どうしたんだ急に?」

「大人の事情って奴ですよ宍戸さん」



状況の読めない宍戸に、鳳は半ば強引に外に連れていった。







「早く仲直りしちゃいなよ?」


残った滝は二人に言う。
跡部は悪い、と目を伏せた。
岳人は宍戸と同様にまだ状況を飲めていない。



「岳人のこと…幸せにしないと許さないから、ね」


跡部に耳打ちで伝えた滝の言葉は間違いなく幼なじみからの言葉で、
跡部は一瞬不覚にも恐怖を感じた。



「あ、当たり前だろ」

「じゃあまたあとでね〜」


バインダーを両手に抱き、楽しげに鼻歌を歌いながら退室していった。




「滝になんて言われたんだよっ」

「お前には関係ねぇよ」


岳人は怒ることもなく、ふーんの一言で済ませた。












「「…………………」」












暫く沈黙が続くと、いくら好きな人との空間でもさすがに居心地が悪い。

みんなの所へ行こうと椅子から立つ岳人の腕を、跡部は掴み静止させる。




「……んだよ」

「行くな馬鹿」



照れ臭さから出てしまうこの言葉。
こんなこと言いたい訳じゃないのに。

素直になれない自分に腹が立つ。




「…………」


じっと見つめて来る大きな瞳に、目を背けてしまう。
そんなに見つめられたら、顔に穴が開いてしまうじゃないか。

他に誰もいない、何も発さない。


この空気で、一体何を話せと言うのだろうか。


外からはグラウンドを駆ける足音が幾度が聞こえ、打ち合いをする音まで聞こえてくる。




こんなに掻き乱されて。
いつもの俺じゃない。

とは思うものの、なかなか行動を起こせない跡部は一人苛ついていた。





「……なぁ。覚えてるか?」


何か話題を振らねば、と悩んでいたが岳人の方から話しかけて来たので、その必要はなくなった。


「…何を。」


無愛想に返す。
別に怒ってる訳じゃない。
喧嘩を引きずってる訳でもない。

雰囲気にのまれてるだけ。


静かな部室で、岳人は静かに語り出した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ