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□悪いのは俺じゃない
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「お前さ、俺に言ったよな。
全国一の座を[狙う]んじゃなくて[捕る]んだって」
何を話すかと思えば…。
と思ったが、敢えて口には出さない。
「俺、あの時お前のこと好きになったんだぜ」
「な……っ」
懐かしい雰囲気に浸っていたせいか、かなり驚いた。
岳人は小さく微笑むと、話を進める。
「一年のくせに自信家で、いきなりキングとか言い出すし」
お前のそういう周りと違う所を好きになったのかもな、と照れた顔を隠すことなくはにかんだ。
「俺もビックリしたんだよ。
まさか男を好きになるなんて思ってもみなかったし」
「…………」
跡部は真っ直ぐに岳人を見つめる。
顔に似合わず男前な性格の岳人が、そんなことを暴露してくれるとは……。
跡部は内心、緊張していた。
二年も前の話を照れ臭そうに話す恋人が、いつも以上に綺麗に見えた。
一年生の頃は、可愛いという感じだったが、今となっては綺麗という表現の方がしっくりくる。
この二年で、そこらの女よりも綺麗になった。
そう思うのは、きっと跡部だけじゃないはず。
「……俺さ」
「……?」
「ずっとお前に憧れてて…。
でも素直に言えなくて…。
偉そうなこと言ったけど、試合には勝てなくて…」
空回りしていたんだな、と跡部は思う。
岳人は跡部への気持ちを自覚出来ず、そのいらつきから悪循環を起こしていた。
「……でも」
岳人が跡部への気持ちを自覚したとき、
「お前が告白してきたんだ」
そう。あれは暑い夏の日。
みんなで花火をした夏休み。
心に蟠りを残したまま、岳人は一人花火を見つめていた。
火が消えてしまいそうな時、
「おい。その火俺のに移せ」
神様は居るんだと思った。
そんな柄じゃないけれど。
「ら、ライター使えば良いだろ」
「馬鹿。今日は風が吹いてる。ライターなんか一瞬で火が消えちまう」
明らかな動揺を隠せない。
岳人は跡部の方を見れなかった。
「なあ」
「ん…?」
跡部の声のトーンが下がる。
「お前、俺様と付き合え」
「あの時の跡部、顔赤かったよな〜」
「う、うるせぇ」
思い出すと照れてしまう。
あのあと、案の定岳人は驚き、喜びのあまり泣いてしまった。
そのせいで皆に心配され、
跡部が皆に睨まれたのは言うまでもない。
「俺、いつも悪態つくけど、跡部とはもっと一緒にいたい」
だから、さっきはごめん。と岳人は目を伏せる。
長い睫毛睨に、跡部は心臓を高鳴らせた。
「俺も…………さっきは悪い」
「…っ!?」
跡部の口から謝罪の言葉が出たため、
岳人は驚愕で動けなくなった。
「なんか文句あんのかよ」
何も言わなくなった岳人に、跡部は目を逸らしながら言った。
「俺ももっとお前と一緒にいたいんだよ、ばーか」
「今日だけ馬鹿でもいいかもなっ」
照れ臭そうにはにかむ岳人。
間違いなく、跡部の恋人。
跡部は優しく抱きしめると、小さな赤い髪を撫でる。
「そんな顔すんな…。
お前しか見えなくなっちまったじゃねぇかよ」
「へへっ。じゃあ俺だけ見てろよ」
赤面しながらも背に手を回す。
「分かってる。最初からお前しかみてねぇよ」
それはそれは、お互いに一目惚れをした素直になれない二人の甘い物語でした。