短文。

□幸せの差
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『沖田さんって意外と背が高いですよね』


そんな言葉が聞こえてきたのは、巡察を終え自室に戻る途中。
声の主は隣を歩く僕の最愛の子だった。


『意外とって、そっちの方が意外と失礼だよね、千鶴ちゃん』


頭一つ分、背が低い千鶴ちゃんは僕と話すときはいつも一生懸命見上げてくる。
だというのにそのことに気づくのが今だなんて、この子はいったい何を見てきたんだろう。


少し腹が立って歩く速度を速めると、僕に遅れまいと小走りになりながらも後をついてくるのが分かる。


『あの…ご、ごめんなさい』


その言葉に背後をそっとうかががうと、いつものように眉尻を下げていて。


この困った顔が見たくて僕は意地悪をする。
千鶴ちゃんは笑った顔が一番可愛いんだけど、僕はこの顔も好きなんだ。
だから


『…何が?』


こう言えば失言に気付いた千鶴ちゃんはもっと困った顔になる。


それもいつものこと。


でも鈍いからわざとだってことにも最後まで気付かない。


そんなところも可愛いからついもっとからかいたくなるんだけど、たまには優しくしてあげようかな、なんて思っていた。


…次の言葉を聞くまでは。


『あの、違うんです!意外とって言ったのは、土方さんより背が高いんだなって最近気付いて、それで!』


千鶴ちゃんが新選組の屯所で生活するようになってだいぶ経つはずなのに、そのことに気付いたのは最近らしい。
それは少し抜けているこの子らしいなとも思う。


…でも僕が気になるのはそこじゃない。


『…どうしてそこで土方さんの名前が出てくるのかな?あの人と何かしてた?』







土方さんの傍らであの人を見上げる千鶴ちゃんの姿。






想像しただけで腹が立つ。


一応、仮にも、土方さんの小姓という立場にある以上、他の幹部たちより接する機会が圧倒的に多いってことは分かってる。
……自分が言い出したことだし。


でも、それでも気に入らない。


千鶴ちゃんのそばにいるのが僕じゃない他の男、ってこと。
巡察に同行するためとはいえ、他の幹部たちと行動していること。


なのに僕の方が背が高いことに気付くほど土方さんを見上げる状況があったなんて…


『…気に入らないなぁ』


こうなったら他の男たちに見られないように僕の部屋に閉じこめておこうか…。
そんなことを考えていると羽織の袂を引かれて。


『違います!ただ…』

『ただ、なに?』


千鶴ちゃんの言葉を遮った声は
自分でも思っているより冷えていて、こんなことで嫉妬しているなんて我ながら心が狭いと思う。
でもそれも仕方がないことだ。
ここには彼女を気にかけている男が他にもいる。





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