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□大晦日の約束
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「「千鶴をね(ぎ)らう会にようこそ!!」」
『・・・一君、なんか一文字足りなくなかった?』
「気のせいだろう。」
気のせいなわけがない。はっきり聞こえたよ。「千鶴をねらう会」って。
(まだ諦めてなかったんだ。)
僕達が付き合い始めたから諦めたと思ったのに。・・・一途ってのも考えものだ。
僕達のそんなやりとりが聞こえていないのか、千鶴ちゃんは訳が分からないといった顔で僕達を見渡している。
「・・・え?あの、これは一体・・・。」
「だ〜か〜ら〜、千鶴をねぎらう会。いつもマネージャーとして頑張っている千鶴に感謝の気持ちを込めて、俺たちからささやかな贈り物。」
テーブルの上に置かれた箱を見て、それが何なのかすぐに分かった千鶴ちゃんは「苺のショートケーキ!?」とそれはもう嬉しそうな顔で笑っていて。
・・・今までこんなに喜んでいるところなんて見たことがなかった。
「そ。千鶴、ここのケーキ好きじゃん。誕生日にはいつもこれだったもんな。」
「うん。ありがとう、平助君。ありがとうございます。沖田先輩、斎藤先輩。」
『・・・うん。喜んでもらえて嬉しいよ。』
「ああ。その顔が見られただけでこの会を催したかいがあったというものだ。」
「・・・そ、そんな・・・。」
・・・なんでそこで頬を染めるかな?
しかもなんだかいつもと態度が違うような気がする。
いつも僕が『可愛い』とか『好きだ』なんて言っても「からかわないでください!」って怒るくせに。
もちろんそれが照れ隠しだってことは分かってる。時々はその言葉に想いを返してくれるって事も知ってる。
(でもよりにもよって一君になんてそんな顔見せなくていいのに。)
不機嫌な僕と違って、箱から出したケーキを目にした千鶴ちゃんは誰の目から見ても興奮していた。
四人しかいないのにホールケーキを買ってきたから尚更なんだろう。
平助が四分の一ずつに切り分けたケーキをみんなで食べながら話題になったのは、千鶴ちゃんの家では何かイベントがあればいつもここのケーキだとか、前に平助が千鶴ちゃんが最後にとっておいた苺を食べたとか、ケーキを作り始めた頃はあんまり上手じゃなかったとか。
…ほとんどが千鶴ちゃんと平助の思い出話ばかり。
そんな話をしているときの千鶴ちゃんはいつもより笑っていて、僕と一緒にいてもこんなには笑わないんじゃないかってくらいの笑顔で。
しかも「甘いものは得意じゃない」なんて、一君は自分のケーキのほとんどを千鶴ちゃんにあげて。そこで僕だってあんまり見たことが無いような全開の笑顔で喜んで。
・・・甘いものを食べているはずなのに全然甘くない。むしろ苦い。
(・・・なんでこんな事になってんだろ・・・。)
。