想いの行方(仮)

□戻ってきた日常(後編)
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沖田さんはご飯と漬け物だけでいいと言っていたけど、それだけというのはさすがに気が引ける。
でも朝食の残りはもう何もないのも事実。
夕ご飯は下ごしらえさえまだの状況だ。

ここは沖田さんの言葉に甘えて、あらかじめ握っておいた握り飯と作りおきの漬け物、そして暖かいお茶を膳にのせて部屋へと戻った。




「お待たせしま…した………沖田…さん?」

「なに、その間と疑問は?」

「…いえ……あの…」


とても意外だったので、とも、他に何かうまい誤魔化しが言えるわけでもなく。
立ち尽くす私が見たものは斎藤さんと一緒に洗濯物を畳む沖田さんだった。


「えと……ありがとう、ございます…?」


どうしてこんなことになっているのか、そもそも沖田さんがこんなことをするなんて…と驚きでいっぱいでうまく頭が回らない。


「…だから、なんで疑問なのさ。僕がこうしているのがそんなにおかしい?」

「いえ…おかしいというかなんというか……」


……意外なんです。
とても。
どこまでも。

誰よりもこういったことから縁遠い人に見えるので。


「…まあ、いいけど。何を考えてるかなんてだいたいわかるし。…さて、これで終わり」


手にしていた洗濯物を畳み終えた沖田さんは、それらを見て少し笑っていた。


「ありがとうございました。あの、これ…本当に何もないんですけど…」


勝手場から持ってきたお膳を差し出すと、握り飯…、と聞こえた呟き。
もしかしたら茶碗によそわれた冷えたご飯が出てくると思っていたんだろうか。


「はい、朝は駄目でもあとから食べたくなるかな、と思って」


今が冬でよかった。
もし今が夏だったら食あたりが心配で作りおきなんてできないから。

これは今朝、朝食前の熱いうちに作っておいたものだった。

なのに見れば沖田さんはとても驚いた様子で。


「…ありがとう」


と言って握り飯にかじりついた。

その言葉にいいえ、と短く返すと私はようやく作業を再開した…んだけど……。


……なんだろう?


私、何か変なことでもした?

視界の端に映る沖田さんは、なんだか微妙な…何かを伺うような、疑うような。そんな顔をしている。

新選組の屯所に来てから今まで、沖田さんにこんなにあからさまな目で見られたことなんてなかったのに。

どんなに『斬っちゃうよ』と言われても、いつも楽しそうに笑っているのが沖田さんだったはずなのに。


(おかしいな…)

やっぱりなにか変なこと、した?

止まりそうになる手をなんとか動かして色々思い返してみても、さっぱりわからない。






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