想いの行方(仮)

□酒は飲んでも飲まれるな
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―――なんだかふわふわする。


―――それになんだか暖かい。



その温もりが心地よくて少しも逃がしたくなくて、それを引き寄せるように腕を伸ばした。


「…千鶴ちゃん、いい?」


聞こえてきた声に顔を上げると目に映ったのは沖田さんだった。

いつになく真剣な、でもなんだか余裕のない顔。

いつもよりずっと近い距離に慌てていると、大きな手が頬に、髪に優しく触れる。


「…いい?」

もう一度問われた言葉に、なにが?と聞きたいのに、私の意思とは裏腹に首が一つ、頷きを落とす。

それを見た沖田さんは今まで見たことがないような―――とろけそうな笑顔で


「ありがとう」


と告げ、その距離を縮める。

伏し目がちに閉じられた翡翠を彩る長いまつげ。

そしてわずかに肌に感じる薄い吐息。


―――口付けられる


そう悟ってその場から逃げようとしても、逞しい腕で抱きしめられた身体はビクともしない。


(―――なんで?)


せめて、と顔を逸らそうとしても、自分の身体なのに言うことを聞いてくれない。


(―――なんで!?どうして!!?)


それどころか自分から背伸びをして、その距離を縮めようとする。


(―――待って!!)


自分の瞼がゆっくりと閉じられ、視界は暗闇に閉ざされる。
感じるのは沖田さんの吐息と、頬に添えられた手の温もりだけ。


(―――!!)







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