想いの行方(仮)

□鬼さん、どちら?
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朝食を終えて、いつものようにそのまま会議をする幹部の皆さんにお茶をお出しして。
そして頃合いを見計らって、後かたづけ。

次の仕事は掃除に洗濯、その他にも何かあればそれらをこなす。

それは全部いつものことで、普段だったら苦もなくこなせてしまう。
いまや私にとっては当たり前のこと。

でも、今日の私にはちょっと…いや、結構辛いことだった。





「…あたま痛い」

平静を装えるくらいの地味な痛みが、朝からずっと続いていた。

起きたばかりの時は気づかなくて、沖田さんに指摘されて分かった、この頭痛の原因。


―――二日酔い


寝起きより、時間がたった今の方が、さらに痛みが増した気がする。

慣れない痛みのせいで、足下が若干危うい。
痛みに意識を持っていかれて、注意力が散漫になる。

他に体調の異常はないため、沖田さんが言ったように風邪ではなんだろう。

でも、どうしても納得がいかない。

沖田さんの話が本当なら、私が口にしたお酒は杯に二杯。
途中から記憶なんて全然ないから、彼の話を信じるしか他ない。

というか、こんなことで騙しても意味がないし、沖田さんが話してくれたことは本当だろう。


「私って、下戸なんだ…」


ちょっと意味が違うかもしれないけど、お酒が飲めないことに違いない。
しかもちょっとたちの悪い下戸。

お屠蘇は飲めるのに、どうしてなんだろう。


(しかも二杯目を飲む前には記憶がない。)


幹部の皆さんは浴びるほど飲んでも平気な人が多いのに、私はたったの二杯…。
なんだか理不尽だ。

せめて十杯…なんて贅沢は言わない。
でも五杯くらいは飲めるようになりたい。

別にお酒が飲めなくても不便はないけど、だったらお酒が飲めてもそれは同じことで。
不便がないなら、なんだってできるようになっておいても損はない…はず。


(お酒が飲める皆さんと、飲めない私の違い…)


「…身体を鍛えたら、強くなるのかな?」


刀を振るうため、剣術だけでなく身体を鍛えていることを知っている。
細身に見られがちな斉藤さんだって、最年少幹部の平助君だってそうだ。

試しに袖をまくって肘から腕を曲げてみる。

力を入れると、申し訳程度に硬くなる二の腕の筋肉。

鍛えるとなるとちょっと……いや、道のりはかなり遠い。

別にこっちもなくても困らないけど、ここでは一応男子ってことになっているし、小太刀だってだって下げているわけだし。


「…もうちょっと欲しいかも」

「あんまり怖いこと言わないでよ。筋肉馬鹿は、新八さんだけで十分だから」


そうしたらもう少し皆さんの役に立てるかな、なんて考えていた私の背後から、少し呆れた声が聞こえてくる。

まさか誰かに独り言を聞かれていたなんて思わなくて、驚いた私は勢いよく振り返った。
そしてそこにいた人物は、声と同じくらい呆れた顔で私を見ていた。


「…沖田さん」


どうしていつもいつも、変なところを見られてしまうんだろう。
決して広くはない屯所だけど、でもここで生活する人は他にもいるというのに。
この確率は異常だと思う。

今朝のこともあって、気まずさから一歩足が引けた私を目敏く目にした沖田さんの顔が、少し曇った気がした。


「で、君は筋肉をつけて何がしたいの?」


でも、次の瞬間にはいつも通りに笑うんだ。

いつも、いつも。

そういう顔、しないでほしい。

なんだか私がいけないことをしたみたい。
なのに沖田さんは、何も言わないで、何もないように笑って。

前みたいにからかったりふざけたりすればいいのに。
そうすれば、私だって何か言い返せるのに。

加えて今朝のことがあったから。

まだ寝不足の顔で、今朝の言葉は夢じゃなかったんだと。
昨日のことも含めて忘れるなと、言われているみたい。








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