想いの行方(仮)

□月下氷人
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冬の稽古は嫌いじゃない。

寒さで身体は思うように動かないときもあるけれど、冷えた空気が身も心も引き締めてくれて、いつもより集中できる気がするから。

それに身体を動かして火照った身体には、この寒さが逆に心地良い。
夏だったら辟易してしまうような汗が、流れていくのが気持ちいいとさえ感じてしまう。

でもやっぱり身体の末端は冷えてしまうもので、竹刀を持つ手は少しかじかんでいる。

私は竹刀が抜けてしまわないよう、ぎゅっと握りなおした。

最初は不純な動機から始めたこの稽古も、少しずつ日課になりつつある。
それは教えてくれる人がいてのものだから、毎回感謝が絶えない。

今日、私が師事しているのは原田さん。

原田さんは槍を得意としているけれど、刀も扱える。
しかもその腕、特に教え方は群を抜いて上手い。

お世辞にも上手いと言えない私を誉めてくれて、でも締めるところは締める。
少し優しすぎる気がするけど、女にはきつくできない、というのが原田さんの主張。

それは女を馬鹿にしてるとかではなく、男は女に守られるべき、という考えからきているらしい。
身を守れる程度には教えるけれど、人を斬るような、本格的な剣術は教えない、と。

少し驚いたけれど、私は異を唱えることはなく、もちろん二もなく頷いた。

私は教わる身だ。
どんな信念を持って戦っているのか、どういう理由で刀を振るっているのか。
人それぞれが持つそこに、文句も駄々もあるはず無い。

それに私も、身体を鍛えたいのであって、斬り合いがしたいわけじゃないから。
そこを正直に話すと、原田さんは笑いながら、俺でよければ、と言ってくれたのだ。






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