想いの行方(仮)

□気まぐれ
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特に何がなくても、時間は過ぎていくもので。

毎日が、同じようなことの繰り返し。

冬になったといっても、気候の変化に驚くほどの変化はない。

でも、そんな日々でも、変わっていくものも、確かにある。






「…まあ、そんなものじゃないかな」

「……本当ですか?」


ぎりぎり及第点、と言いたげな沖田さんを、竹刀を下ろして胡乱の目で見ると、彼は肩をすくめた。


「そりゃ、細かいことを言い出したらきりがないけど、僕が教えているわけじゃないし。どうしても気になるところは言うけど、それ以上は言わない」


それが約束だったよね、と言われてしまったら私は何も返せなくて、口をつぐんだ。

そう。
それが約束だった。

雑用が終わり、私は稽古の一環として習慣にしていた素振りをしていた。
そして沖田さんは、そんな私を渋い顔をして見ていたのだ。

その表情の意味がわからず聞いてみると、直した方がいい癖が私にはあるらしく、ずっと気になっていたのだそう。

いい機会だと思った。

これを期に、色々教わろうと思った。

だからもう一度、以前と同じお願いをしてみた私に、少し悩んだ沖田さんは今度こそ、頷いてくれた。

…条件付きで。


『口頭で注意するだけ』


…と。

だから沖田さんは、今も縁側に座ったまま。


これ以上、口は出しても手を出すつもりはない―――


彼の全てが、そう物語っている。

柱に軽くもたれて、腕だって組んだままだ。

動くどころか、その場から立つ気すらなさそうに見受けられる。
そこまで徹底していると、逆に清々しく感じる。

私は諦めて、教わったとおり、もう一度素振りを始めた。
指摘された箇所を意識しているから、まだ動きはぎこちない。

けれど盗み見た沖田さんが何も言わないということは、これでいいということなんだろう。
表情も、見るに耐えないもの、というほどではなくなっている。

早く自分のものにするため、何度も繰り返すうちに、私の目には振り下ろした竹刀の先端のみが写る。

二人きりの空気に耐えることができるのか、以前は心配していたことだったけれど、そんな心配は杞憂だったようだ。

不思議なことに、一つのことに集中していれば、他のことなんて気にならなくなってくる。

それに沖田さんも。

真剣に稽古に取り組む私に対しては、意地悪したりからかったりといったことは一切してこない。
自分が稽古をしているときと同じように、真剣そのもだ。

いつもこうならいいのに、と思ったけれど、沖田さんが急に真面目になったりしたら、それはそれで怖いな、とも思う。






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