想いの行方(仮)

□彷徨
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いつもより慎重な足取りで、氷のように冷えた廊下を歩く。

太陽が顔を出している昼間はまだ暖かいけれど、日が沈んでしまえば今の季節は一気に寒くなる。

空気は冷えきって、凍えるような…とまではいかないけれど、指先や爪先の感覚を奪うには十分な寒さだ。

私はそんな中、ようやく乾いた隊服を持ち主に返しに向かっている真っ最中。

私の手には、幾重にも重なった隊服が綺麗に畳んである。

新選組の象徴である浅葱の色は暗闇に紛れて、今ははっきりとは見えない。
けれどとても大切なもので、それらをぞんざいに扱うことはできない。

だから他の洗濯物よりも丁寧に畳んでいた結果、返しに行くのが遅くなってしまっていた。

胸元を越える高さになってしまった着物は、少しのきかっけで倒壊してしまいそうで。

そうなったら、いくら綺麗に畳んだといっても全てが無駄になる。

それにそんなことになったら、なんだか縁起が悪いような気がするし。

だからいつも以上に気を遣って、幹部の皆さんのそれぞれの部屋まで向かっている時だった。


「…あれは」


今まさに、門から出ようとしている人影が四つ、目に入った。

門限を守れば外出に規制はないし、そう珍しいことでもない。

でもその中には、今から向かおうと思っていた人達が含まれていたから少し困った。

さすがに主不在の部屋に入ることは躊躇われる。
しかも相手は幹部だ。
気にしない、と言ってくれそうな面子ばかりではあったけど、気にするのはむしろ私の方。

渡すのは明日にしようかな、とも考えた。
でも何があるかわからないし、遅いよりは早い方がいいだろう。

だから私は、帰ってきたら渡せばいいか、ととりあえず屯所に残っているであろう方達の部屋へ、行き先を変更した。






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