想いの行方(仮)

□傷
1ページ/3ページ





さらさらと筆が紙の上を滑る音と、墨の香り。

まっすぐに伸びた背筋と、同じようにまっすぐな長い髪。

そして、部屋の隅に座る私。

見覚えと、身に覚えものある光景なのに、懐かしい、なんて少しもなかった。

朝食を終えてから何もしていない私には、やらなければならないことが山ほどある。

こんな時に限って、天気は快晴。
風もほとんどない。

洗濯と掃除日和とは、こんな日のことをいうんだろうと思うくらい、冬とは思えないくらいだ。

早くこの部屋から出て、色々したほうがいいと思うのに。

なのに…。


「…何か、仕事をください」


この部屋から出ていきたくない私は、無いも等しい一縷の希望をもって聞いてみた。

でも返ってくる答えは。


「今は何もねえよ」


この一つのみ。

お茶は、この部屋に入るための言い訳として煎れてきた。

あとは?
私に何が出来る?

考えてみても、何もない。


「お前や斎藤みたいな奴がもっといれば、俺の仕事も多少は減るんだろうがな」

「斎藤さんはともかく、私なんて…。そんなことは、ないと思います」


それは、過大評価というものだ。

私が今、仕事が欲しい理由は…。


「おい。それは、俺の仕事は減らねえから、俺はずっとこのままここにいることになる、ってことか」

「そ、そうではなくて。…私なんかみたいな人間が土方さんのお手伝いをしたって、たいしてお役に立てないと思う、という意味です…」

「そうか。だったら、そんな奴に回す仕事なんてねえよ」


土方さんの言い分に、間違いは一分もない。

自分に自信を持てない人間になんて、進んで仕事を任せたりしないだろう。

いくら、やり遂げることができる、と声高に叫んでも、今の私は土方さんの信頼に値しない、情けない顔をして部屋に居座っている子供、みたいに映っているにちがいない。

実際、間違いではないから否定もできない。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ