想いの行方(仮)

□そばに……
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頭が重い…。

身体が重い…。

目蓋も、なんだか少し痛い。



どこも動かしたくない、と思ってしまうほどのだるさに全身を襲われ、それでもなんとか目を開ける。
そこには見慣れた天井が、ゆらゆらと波打っていた。

天井は板張りなのだから、波打つはずがない。

ならば、その原因は、私。

息を一つ吐いて、額に手をあてる。

そこは触れた手との差異も分からない。


「…ねつ?」


でも喉に痛みはないし、とぼんやりしていると、音もなく障子に人影が近づいてきた。


「雪村、起きているか?朝食の時間だ」

「…ぃとう…さん?」

「……。開けても大丈夫か?」

「…はい」


力なく返事を返すと、少しの間をおいて開かれた障子から、刺すような光が入り込んでくる。

反射的に目を顰めた私に気付いたのか、斎藤さんはすぐ障子を閉めた。


「体調が優れないのか?」

「…わかりません」

「失礼する」


斎藤さんは布団の傍らに膝をつくと、一言声をかけ、額に手をのせた。


「…熱があるな。風邪でもひいたか」

「…でも、喉に痛みはなくて…」

「そうか。しかし、起き上がることができないのであれば無理はするな。食事も、後から運んでくる故、もう少し休んでいろ」

「…大丈夫です。今、行きます…」


こんなことで手間をかけさせてしまうなんて、申し訳ない。

ただでさえ迷惑をかけているんだから、これ以上気を使わせるわけにはいかない。

なんとか起き上がろうとする私を、斎藤さんは手の動きだけで制した。


「無茶はするな。休むべき時には休む。当たり前のことだ」

「……でも…」

「あんたはなんでも頑張りすぎだ。普段の疲れでも出たんだろう」


何を指して『頑張りすぎる』のか、分からない。

けれどここで、私が起きることを主張しても、斎藤さんが許してくれないであろうことは明白で。


「…すみません」

「謝ることはない。体調を崩すことくらい、誰にでもある」


布団に戻ることを斎藤さんは擁護してくれているけれど、やっぱり申し訳ない。

結局、昨日は何もしていない。

今日も、おそらく何もできないだろう。

自分にできることくらいは、とお手伝いをしてきたのに。

あまりの不甲斐なさに、歪み始める視界。

昨日さんざん流したはずなのに、どこにこれだけの涙が隠されているというのか。

でも、ここで泣いたりしたら無用な心配をかけてしまう。それは避けたかった。


「…すみません」


私は目を閉じると、大人しく斎藤さんの言葉に従った。






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