想いの行方(仮)
□夢とうつつと
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そこは、真っ暗な暗闇の中だった。
物音一つ聞こえず、灯りらしいものも何も見えない。
なのに先にある顔は、はっきり見えた。
『…いい?』
どこかで聞いたことのある、聞き慣れない声音に視線を向ける。
そこには声と同じくらい真剣な顔があった。
『千鶴ちゃん、いい?』
もう一度問われ、私は迷わず頷いた。
そして見たそれに、胸を締め付けられた。
『…ありがとう』
嬉しそうに笑いながら、なにか別の感情をうつす。
どうしてそんな表情をするのか分からず、見上げたままでいると、徐々に二人の距離がなくなっていく。
私はその意味に気付いて、静かに目を閉じた。
責めることもなじることもせず、ただその時を待つ。
何かするたび、されるたび騒いでいた鼓動は、今は驚くくらい静かで。
だから気が付いた。
(……ああ。これは夢なんだ…)
あり得ないこの状況は、以前見た夢と同じだった。
声音や表情、彼を見上げる体勢も、何もかも。
でも違う箇所が、一つだけあった。
触れる寸前で、一瞬間を置いた彼が口にした一言。
『……ごめん』
吐息が唇に触れるほどの距離で、ようやく聞き取れるほどの大きさだった。
それは、何に対しての謝罪だったのか。
私には、確かめるすべがない。
でもその必要はなかった。
だってこれは―――…
。