想いの行方(仮)
□声にできない音
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かじかんできた指先に、白く煙る息を吐く。
けれど長時間寒さに晒されて血の気が失せたそこに、暖かさは感じない。
「さむ…」
こんなに冷えるなら、何か掛けてくればよかった。
今から取りに行ってもいいけれど、離れたすきに入れ違いになるのは困る。
だからどんなに寒くても、今の私には『待つ』以外の選択肢はない。
寒さに関しては、まだ我慢できる。
私は震える指先にもう一度、息を吹き掛けた。
あの後、結局沖田さんに会うことはできなかった。
声はかけた。
何度も。
けれど彼は自室にいなかったのか、返事が返ってくることはなく。
しばらくして人に呼ばれた私は、後ろ髪を引かれながら、そこから離れた。
その後も、何度も訪れては声をかけ、待ってみても結果は同じ。
もしかしたら、ここにはいないんじゃ…、と不安になって探してみても、どこにもいない。
屯所の中にいるのなら、いつか偶然にでも会えるかもしれない、と必要以上に歩き回ってみたけれど、結果は変わらず。
以前は思わぬ瞬間に会うことができたのに、こんな時に限って偶然というものは生まれない。
あの偶然の数々は、いったいなんだったんだろう。
聞かれたくないことを聞かれ、見られたくない時も同じ。
何度もあったのに。
なのに探している時には見つからないなんて、私はどれだけ運が悪いのか。
そんなことを悶々と考えていたから、
『そもそも彼が屯所にいなければ、その可能性すらない』
と気付くまで、塀の外へ出ることを許されていない私は相当の時間を要した。
だったら、確実に会える瞬間を狙うまでだ。
夕食の時間にすら姿を現さなかった沖田さんが、原田さんとまた出掛けたと聞いて、私はここにいる。
「遅いな…」
いつ帰って来るかもわからない相手を待ち続けるのが、こんなにも辛いなんて思わなかった。
出掛けた先は、どこなのか。
この前と同じところだったら…。
また誰か、私が知らない人が側にいるのかもしれない。
前回は帰ってきたけれど、今日は帰って来ないかもしれない。
帰って来ても、私となんて話してくれないかもしれない。
徹底的に避けるくらいだ。
その可能性だってある。
一人で待ち続けていると、自然と暗い方向にばかり考えが向いてしまう。
そのたび、大丈夫、なんとかなる、と自分を鼓舞する。
けど、何が大丈夫で、何がどうなるというんだろう…。
許してもらえてももらえなくても、それは話を聞いてもらえることが前提だ。
今までは、どんなことでも私の話に耳をかたむけてくれていたけれど、次はどうなるかわからない。
「…どうして……」
こんなことになってしまったんだろう。
私は引き寄せた膝に、額を乗せた。
以前も考えていたことだけれど、今は状況が全く違う。
前は沖田さんに追いかけられていて、でも今はその逆。
沖田さんも、今の私のようだったのだろうか。
(…違うか)
いつもと同じで私をからかっていただけで、そこに深い意味はなかったんだから。
私を振り回す態度も言動にも、全部。
そうとは知らず、その作戦にまんまと嵌まった私を見て、楽しんでいただけ。
きっと、そう。
分かっている。
。