想いの行方(仮)
□涙
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京の町を一緒に歩くのはいつぶりだろう。他の組の巡察には時々同行させてもらっていたけれど、一番組だけはずっとなかった。
でも今日は違う。
沖田さんを避ける理由がなくなった今は、むしろ逆。
けれど、それが自分を苦しめるだけだとも、分かっているつもり。
今も。
なにも言わなくても時々振り向いてくれるのは、私がここにいるかの確認のため。
逃げ出そうとしていないか、と。
(…そんなこと、絶対にないのに)
今までも。これからも。
だから近すぎず、遠すぎず。
間合いを見誤ることがないよう、私たちの間に空けた距離。
これが適切なものなのか、今の私には分からない。
もうちょっと、と思う反面、これ以上は、と考えて一歩引いてしまう。
照れもあるけれど、なにより怖いから。
今はまだ気にかけてもらえている。でも、それすらなくなったら…。
私と沖田さんは違うから。
我が儘を言って彼の後ろを歩くだけが、今の私の精一杯。
―――父様を早く見つけたいんです!
値踏みするような鋭い目を誤魔化して、もっともらしいことを口にした私の幼稚な謀を、土方さんは信じてくれた。
本当に申し訳ないと思っているし、悟られていないと信じたい。
だって、もし知られてしまったら、もう一緒にいることができなくなるだろうから。
『新選組の風紀を乱しかねませんからね』
初めて会った時、山南さんはそう言った。
新選組では異質な存在である私は排除されてしまう可能性すらある。
私はここでは、『いたら便利だけど、いなくても困らない』存在。
自虐的になるつもりはないけれど、組長である皆さんより優遇されることはない。
たとえそれが、私がきっかけではなかったとしても。
こんな時に思い知らされる。
いつも近くにいた人たち―――沖田さんと私には、こんなにも距離があることを。
こんな時だから、思い知る。
私の思いなんて、彼の心持ちひとつで覆されるのだと。
本当は、私なんかが近づけるような人ではないことを。
自分の地位をひけらかす人なんていないから、普段は気付かなかった。
でも、今は―――。
危険が常に付きまとう巡察に同行しているからと、それとは別の緊張でおかしくなりそうな胸元を押さえる。
その早さは最初からずっと変わらない。
浅葱の陰から見え隠れする、それ。
最後に触れたのは、昨夜。
その前は、指切りをしたとき。
その前は確か…数に入れていいのか怪しいけれど、甘味屋で。
酔って記憶をなくした時、その次の日の朝、そしてその後。
深い関係にない者同士なら、こんなものだろう。
でも私なんかより、もっと親密にそれを感じた人が、どこかにいる。
(そんなの……)
胸にまた、黒くて重い感情が広がる。
昨夜だって、原田さんと出掛けた先で何かあったのかもしれない。
そんなこと聞けないから子細は知らない。
そう、分かっていたのに。
「…沖田さん」
「なに?」
つい彼の名前を呼んでしまっていた。
「あっ、あの。…ええと……夜、また出掛けられるんですか?」
無意識での出来事に焦りながら、本心を悟られないよう慌てて誤魔化した。
慌てていても、さぐりを入れることを忘れないなんて、我ながら狡猾すぎる。
。