想いの行方(仮)

□その先にいるのは…
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気付いたことがある

誰にも怪しまれずに、すむ方法





夕食を終え、その後片付けもすんで、あとは寝るだけの時間。

布団は敷いた。
夜着に着替えて、明日のためにもう眠らなくては。

分かっていても、私は動けずにいる。

早くしたほうがいいと分かっているのに、熱かったお茶がぬるくなるくらい、こうしている。

沖田さんには何の意味がなくても、私は違う。

嬉しいと思うのと同時に、どうして、と考えてしまう。

ただの厚意を疑ったりする自分が嫌で、でも嬉しくて胸がいっぱいで。

もう、なにも望まないと決めた。

だからちょっとだけ、誰にも迷惑をかけないから、許してほしかった。


『おかえりなさい』


そう言えば


『ただいま』


私の言葉に、ちゃんと返してくれる。
帰ってきたとき、一番に顔を見ることができる。

それに気付いてからは、待つという行為を苦だなんて思ったことがない。
逆に楽しみにすら感じる。

だって、絶対に会えて、短くても言葉を交わすことができる。

監視されている時には気軽にできないことが、全て許される。

無条件で。

なら、やらない選択肢は無い。
誰にも迷惑はかけないように、と自分にきつく戒めながら。

けれど、何度しても盗み見している時の緊張感とまったく違う胸のどきどきには慣れないし、少なからず不安はある。

もしかしたら…



外で誰かと会っているのかもしれない。

帰ってこないかもしれない。



同時に、そんなことも考える。

何かしていないと悪い方向ばかりに考えすぎるから、じっとしていることなんてできなくて。

玄関の掃除をしていればいいことに気付いたのは、そんな時だった。

身体を動かせて、なおかつ帰ってきたことにすぐ気付くことができる。
これ以上ないほどの隠れ蓑だ。

さすがに夜は無理だけど、明るい時間帯なら誰にも怪しまれずにすむ。

とは言っても、少なくとも一人、気付いている人がいる。

でも特に何も言ってこないのは、見逃されているからなんだろう。

彼の優しさには感謝しかない。

その優しさに甘えすぎないよう、もう誰にもばれないよう、自らを律しないといけないのに。

ずっと眺めるだけだったそれに、私はようやく手を伸ばした。


「…美味しい」


つい笑みが浮かんでしまうのは、味のせいだけではない。

口に含んだお団子は少し硬かった。

でもほんのりとした甘味があって、温かいお茶とよく合っている。

近藤さんとのお茶のためにこのお団子を選んだ理由がよく分かる。

美味しくて、身も心も温かくなって、嬉しくて。





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