短文。
□甘い悪戯
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『お待たせしました。どうぞ』
そう言って置かれた盆の上には二人分のお茶と、懐紙で折った小さな箱に入れられた色とりどりの金平糖。
それは女の子が好みそうなもので、近藤さんが千鶴ちゃんのために選んできたのだとすぐにわかった。
(近藤さんらしいな…)
きっと店先で彼女が喜ぶものを、と必死に選んだに違いない。
そんな近藤さんの姿を想像すれば自然と笑みが零れた。
『ありがとう。金平糖かぁ、久しぶりだな』
『そうなんですか?私はこんなに美味しいものなら毎日でも食べたいです。…ん、甘くて美味しいです』
いつも笑っている千鶴ちゃんだけど、今はそれ以上の笑顔でとても幸せそう。
『ははっ。千鶴ちゃん、女の子だもんね。僕も金平糖は好きだけど、甘味よりお酒がいいかな』
金平糖を一つ口に入れて舌で転がせば甘く広がる優しい味。
甘い物は好きだけど、これだけは別で。
久しぶりに食べるとやっぱりこれが一番好きだとなぁと思えた。
『飲み過ぎると身体に障りますよ?』
『さすがにそこまでは飲まないよ。何より煩い人がいるから飲ませてもらえないし』
『…そうですね。』
苦笑を浮かべて曖昧に返事をするのを見れば、多分僕と同じ人を思い出したらしいことがわかる。
そんな彼女がそう言えば、と一瞬にして笑顔になりまた一つ金平糖を手に取って話を続けた。
『これをいただいた時に近藤さんから聞いたんですけど、外国では今日は甘味のお祭りがあるそうなんです』
『へぇ…』
『なんでも、お化けに変装した子供たちが家々を練り歩いて甘味を貰う、っていうお祭りなんだそうです』
『…何、それ?』
お化けの変装に甘味ってどこをどう考えたら繋がるのか解らない…。
お供え物とは違うだろうし、子供へのご褒美ってだけだったらわざわざ変装させなくてもいいと思うし。
そもそも他人の家に貰いに行くって、さすがにちょっと図々しい。
そんなことを考えていると千鶴ちゃんはさらに言葉を続けた。
『【はろうぃん】?っていうお祭りで、【とりっくおぁとりーと】?って言われたら甘味をあげなくちゃいけなくて、甘味をあげないと悪戯されちゃうんです』
…しかも千鶴ちゃんの話が本当なら、罰を受けるのは甘味をあげる側らしい。
『奇怪なお祭り。そもそも【とりっくおあとりーと】だっけ?何それ』
『合言葉みたいなものらしくて、【お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ】って意味らしいです。羨ましいですよね。そんな日があるなんて夢のようです』
…君はもう子供じゃないでしょ、という言葉はあえて言わないであげた。
(けど悪戯、か…)
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