短文。
□甘い悪戯
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その瞬間、僕の中に生まれた考えに気付くはずが無い千鶴ちゃんは、夢のような異国の祭りを想像してまた一つ金平糖を口にする。
…そんな彼女に―――誰からでも甘味を受け取る千鶴ちゃんにちょっとだけ、意地悪をしてやろうと思った。
『ふ〜ん。…ねぇ、千鶴ちゃん』
『はい?』
『【とりっくおあとりーと】?』
『…え?』
相変わらず美味しそうに金平糖を口にしている彼女の名を呼んで、右手を差し出す。
そしてさっき聞いたばかりの合言葉を口にすれば、そんなことを言われると思っていなかった彼女は驚いた顔で金平糖を口に運んでいた手を止めた。
『だから、【とりっくおあとりーと】。早くくれないと悪戯しちゃうよ?』
『ええと…。はい、どうぞ』
ほんの少し悩んで、まだ残っている金平糖を箱ごと渡そうとするのを見てそれを制した。
『それは近藤さんからでしょ?僕は千鶴ちゃんに言ってるの。【とりっくおあとりーと】』
『あの…、他に甘味なんて持ってません…きゃっ』
予想どおりの答に千鶴ちゃんの腕を引いて、態勢を崩して僕の胸元に縋り付く彼女を無理矢理上向かせた。
『じゃあ悪戯決定、だね』
そしてその口を塞いだ。
『っんん。やっ、沖田さ…ぅん』
一呼吸の後に唇を解放して非難を口にしようとする彼女の唇を舐めると、先ほど自分が食べたものよりもっと甘い味。
でもそれは決して嫌なものではなく、もう一度と何度でも求めたくなる、癖になるような甘さだった。
『…とっても甘いね。そんな風に睨んだって千鶴ちゃんが悪いんだよ?僕に甘味をくれないから』
『〜〜!!じゃあ今度は私の番です!えっと、【とりっくおあとりーと】!!』
異性に口付けられたというのに彼女には危機感が無いのか。
逃げるどころか挑むように広げた右手をこちらに向けてくる。
『沖田さんも何もお持ちじゃありませんよね?悪戯決定です』
屯所にいるのは彼女を除けば男だけ。
飢えた肉食動物の檻の中に草食動物が居る―――そんな状況にも拘らず警戒心の欠片も抱かない。
勝ち誇った顔でそう口にした千鶴ちゃんはいつもより子供っぽい笑顔で、くるくるとかわる表情になんだか腹が立った。
『…残念。ここにあるよ』
『それは近藤さんからですから駄目ですよ。沖田さんがそう言ったんじゃないですか。』
『うん、だから…』
『え?…んっ。やっ、おき…んんっ』
金平糖を一つ口に含んで千鶴ちゃんの唇に噛み付くように口付けた。
逃げるように顔を背けて抗議の言葉を口にしようとするけど、その言葉を遮って唇を塞いで開いた口から舌を入れて彼女の口内を味わうように貪る。
『っふ?…んん〜!』
千鶴ちゃんの口内は金平糖よりも甘くて、逃げる舌を追い掛けて含んでいた金平糖を溶かすように絡め合わせた。
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