短文。

□Loveless
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辺りは墨を垂らしたような漆黒の闇。



今日は新月では無かったはずだけど、厚い雲に遮られてその光も、月に寄り添うように瞬く星たちも見えない。



そんな中、僕は壬生寺で木刀を振るっていた。



誰かとの試合や手合わせはそれなりに楽しいけど、今日はそんなことをしたら取り返しがつかないことになりそうで。
一人ここでずっと稽古をしていた。


でも稽古なんて立派なものじゃないってこと、自分でも分かっている。
昼間の千鶴ちゃんの言葉で溜まった苛つきを発散しているだけ。





―――ただの八つ当たり。





いつも刀を振るっている間だけは余計な事は忘れられた。
考えずにいられた。




…いられたはずなのに。




闇を見据える目に映るのはここにはいない敵の姿。
狙うのはそいつらの首筋や心臓。
でも何度狙いを定めても自分の太刀筋がそこを貫くことはなかった。




太刀筋には使い手の心が表れる。




何度も手元が狂うのはそれだけ自分の心が定まっていないことを示していた。




千鶴ちゃんが誰をどう想おうと自分がどうこう言える立場じゃない。



今日、千鶴ちゃんをあの店に連れていったのは自分で、あそこに行かなければあんな彼女を見ることは無かったはずで。



あの時千鶴ちゃんを止める言葉だってあったはずなのに、それを選ばなかったのは自分が今の関係以下になることを恐れたせい…。





頭を占めるのは逃げた自分の弱さを誤魔化そうとする、自分勝手な言い訳ばかり。


いつから僕はこんなに弱くなった?
以前は他人との距離や気持ちなんて気にしたりしなかった。


その一歩を踏み込むのに躊躇なんてしなかったのに。





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