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□大晦日の約束
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事の発端は平助が言い出したとある事がきっかけだった。





『千鶴ちゃんをねぎらう会ぃ?』


今年最後の部活の日、平助が突然言い出した事につい胡乱気な声が出た。


部活も終わって着替えが終わり、さあ帰ろうかって時に呼び止められて。他の部員達が帰った更衣室に僕、一君、平助、と男三人という何とも虚しい構図ができあがった。しかも部活が終わったあとの男子更衣室・・・男だけという状況も空気もむさ苦しい。


そんな中、いきなり「千鶴をねぎらう会をしようぜ」と、何の前置きもなしに始められた会話。その一言に僕も、隣でその話を聞いていた一君も眉を顰めた。


「そ。千鶴ってマネージャー始めてから思うように出かけてたりしてないだろ?俺たちは自分のために部活してるけど、千鶴ってそれに付き合わされてるようなもんじゃん。」

「・・・まぁ、確かに。しかし【ねぎらう】と言っても、具体的に何をするんだ?」


何かいい案はあるかと寄せられた視線に一気に気分が悪くなった。

クリスマスのデートを邪魔しておいて、今更「思うように出掛けてない」とか「ねぎらう」とか、どの口が言えるんだと。あのとき邪魔さえされなければ、少なくともあの日千鶴ちゃんが行きたいと言っていた場所には行けたはずなのに。


でも、だからって平助の言うことを反対する理由もない。千鶴ちゃんは普段から頑張りすぎるから。

だから自分なりに彼女が喜びそうな事を考えてみた。


・・・でも何も思いつかなかった。

そして僕が千鶴ちゃんについて知っている事なんてほとんど無いという事実に愕然とした。


「ねぎらうっつったら食い物だろ。そんで千鶴っていったら苺のショートケーキだ!」

『・・・何を当たり前、みたいに言ってるの?男じゃないんだから食べ物でねぎらうってどうなの?』

「千鶴って昔から苺のショートケーキが好きでさあ。好きすぎて自分でも作るくらいなんだぜ。」


おれもよくお裾分けって貰ってたし、なんて僕が知らないことを平助は得意げに話す。


…そんなこと知らなかった。もちろんケーキだって作ってもらったこともない。


千鶴ちゃんと平助は幼なじみで、僕と付き合う前は平助とよく行動を共にしていた。


今でも僕には話さないような事も平助には話していて、そんなときの彼女は安心しきった、僕には見せない笑顔をしている。


千鶴ちゃんは僕を想ってくれているーーーその気持ちを疑うつもりは無いけど、自分が知らない彼女を他の男が知っている。そんな些細な事が気に入らなかった。


その後、平助の出した案以上にいい考えが浮かばなかった僕たちは千鶴ちゃんが一番好きだと言っていった(平助談)ケーキを予約したり、当日の諸々の打ち合わせをした。


・・・その間、千鶴ちゃんが外でずっと待っていたということを思い出したのは、部活が終わってだいぶ経った、冷え性の千鶴ちゃんが我慢の限界で僕たちに声をかけてからだった。




そしてその【千鶴ちゃんをねぎらう会】は大晦日の夜に行われる事になって、この後に初詣にも行こうと、これも平助からの提案だった。




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