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□大晦日の約束
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神社の中はどこも人がいて、落ち着いて話す雰囲気じゃなかったっからそこを離れた。




「沖田先輩は・・・なんで怒っているんですか?」

『・・・別に怒ってなんかないよ。』



別に怒っているわけじゃない



「・・・嘘です。さっきから・・・ううん、今日会ったときからずっと不機嫌な顔をしてます。」

『・・・気のせいじゃない?』



いつも鈍感なくせに、こういうときだけは敏感なんだ。



「・・・私、何かしましたか?」

『別に千鶴ちゃんのせいじゃないよ。』



・・・そう。千鶴ちゃんのせいじゃない。



ただ、僕が勝手に嫉妬してるだけ。



僕は君のことを何も知らない。君も僕に何も教えてくれない・・・。


それはなんだか踏み込んでいいのは「ここまで」と線引きをされているみたいで。



せっかく二人きりになれても楽しくない、嬉しくもない・・・こんなことは初めてだった。



付き合ってまだ少ししかたっていない。学年だって違う。平助のように幼なじみというわけでもない。



だから知らなくて当然・・・とは思いたくなかった。むしろ、だからどんな小さな事でも知りたいと思う。教えてほしいと思うのに。




『千鶴ちゃんはなんで僕には何も話してくれないの?』

「何も、って何の話ですか?」

『・・・平助が言わなかったら千鶴ちゃんの好きな物、知らなかった。』



好きな物は最後まで取っておくタイプだとか、あのケーキが好きなこと。



子供っぽい嫉妬だって思われても、そんなことも知らなかったことが悔しくてたまらない。



・・・それに



『それにあんな風にも笑うんだね。僕の前じゃ遠慮して我が儘だって言わないで・・・。一歩引いてる感じなのに。』

「・・・それは。」

『そうやってすぐ視線逸らして。言ったよね、言いたいことがあるなら言わなきゃ分からないって。』



いつもなら好意的にとれるほんの小さな仕草が今はどれも燗に障る。



逸らされた視線も、震える肩も、涙をいっぱいに湛えた瞳も。



『・・・これじゃあなんだか僕が悪者みたいだ。』

「っ、違っ。」

『違わないよ。今、自分がどんな顔してるか、見てみれば分かるよ。』



本当に困った、心底傷ついた・・・今にも泣きそうな顔。



こんな顔をさせたいわけじゃない。


見たいのは涙なんかじゃない。


もっと、ずっと、僕だけに笑っていてほしいのに。





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