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□繋がる糸の先に…
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そして行き着いたのが今いる手芸店の毛糸売り場。これからが編み物の時期ということもあって、フロアの四分の一を毛糸売り場で占められている光景を見て沖田先輩は唖然としていた。


私には慣れた光景も、男の、しかも興味もない先輩には信じられないものに見えるんだろう。


あまり待たせるわけにもいかないから早速毛糸を選び始めた。




「千鶴ちゃんは何を作るの?」




そんな私に突然向けられた質問に、毛糸を探していた手が一瞬止まる。


『…マフラーを…編もうかな、と。』

「自分用?」

『…いえ、…ちょっと…。』


まさか『沖田先輩のマフラーです。』とは言えず、言葉を濁すと「ふぅん。」と興味無さげな返事が返ってくる。


やっぱり一人の時に来れば良かったと思っても今更で、急いで毛糸を見つけることに集中した。





そうは言っても棚の上から下まで並ぶ毛糸の中から、値段と素材で希望に添うものはなかなか見つからない。


肌触りがいいものはシルクやアルパカ、カシミアといった素材との混合が多く、そういうものは間違いなく財布には優しくない。だからといって安いものはアクリルがメインの肌触りが良いとは決して言えないものになってしまう。


以前アクリルの毛糸で薫にマフラーを編んだことがあったけど、「チクチクする!」とメチャクチャに怒られた。それでも薫は身につけてくれたけど、今回はそんな失敗はできない。




せっかくならちゃんといいもので編みたい。


色は譲歩出来ても素材だけは譲れない。




…これは私の小さなこだわりだった。


そうなるとウールかな、といくつかの候補を挙げた。




そして次の問題は色。


女の子だったら白やピンク、暖色系やパステルカラーでいいけど、男の人となるとそれじゃマズい。


黒は無難だけど地味だし、濃紺…じゃちょっと変かな?深い緑色はなんだかお年寄り向けっぽいし、灰色は制服には合わなさそう…。


こういうのは考えすぎは良くないってわかってても色々と考え始めると余計にドツボにはまる。


そこでやっと思い出した。


(こんな時のために沖田先輩と来たんじゃない。)


『…あの、先輩。先輩はどんな色がいいと思いますか?』


『先輩の好きな色を教えて下さい。』なんてストレートには言えなくて、ぼかした言い方をすると、一瞬眉を顰めた先輩からいつもよりちょっとキツい言葉が返ってきた。


「…さあ?僕の好みがそれをあげる人と同じってわけじゃないから、わからないな。」

『そう、ですよね…。』





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