短文。

□キスの記念日
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『…沖田先輩。顔、赤いです』

『……そう?気のせいじゃない?』

『でも…』

『…きっと夕陽のせいだよ』


さっきまで余裕の笑みを浮かべていた顔をふいっと背けて見えた、先輩の耳。

左胸から感じる鼓動は相変わらず早い。

もしかして…と考えるとおかしくて

嬉しくて


『先輩…今、何時か知ってますか?』


私の言葉にさぁ?と返事をした先輩の耳は暗がりで見てもわかるくらい赤かった。

赤く染めた耳も

早い心音も

先輩が緊張していたんだって教えてくれるみたいで。

それに気づいてクスクス笑っていると拗ねた声が頭の上から聞こえてきた。


『なに笑ってるの』

『いいえ、なんでもありません』


なんだか先輩が可愛く見えたけど、それは言わないでおいた。


『…ねぇ、千鶴ちゃん――――』


先輩の囁きに驚いて顔をあげると

普段はあんまり見ない真剣な顔。


『…ダメ?』


先輩にしては控えめな問いに少し迷って

ふるふると頭を振る。


そして先輩のカーディガンをぎゅっと握って

それに答えた。


頬に添えられた大きな手に上を向くように促されて


少しずつ縮まる先輩との距離


伏せられた長い睫毛が見えて


ちょっとだけ背伸びをして


そっと瞳を閉じた……





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