想いの行方(仮)

□見えないこたえ
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土方さんは手をいっさい休めることなく動かし続けている。
いつもなら少しでも休憩をとるよう促すところだけれど、勝手に部屋に侵入してきた私がそんなことを言えた立場ではない。

せめてお茶でも煎れてきたいところだけど、まだこの部屋から出られない。



…出たくない。



「何かお手伝いできること、ありませんか?」


何もせずに居座るのはさすがに居心地が悪い。
我ながら狡いなと思ったけど、それが許されるための理由が欲しかった。

土方さんは小姓のはずの私にあまり積極的にあれをしろ、と口にする人ではないから、余計に。
私が関わることを許されている範囲が極端に狭い、ということにも原因はあるけれど。

私ができることといったら、お茶を煎れてくることや書き損じた料紙の後片づけくらいだろうか。
でもそれもなかなかさせにくいことなんだろう。
いつも難しい顔で文机に向かっている土方さんは副長という肩書きのためか、そうそう簡単な案件を負ったりはしないみたいだから。

私ができることなんて、本当はこの部屋には無い。

だから返ってくる言葉がなんなのか、予想はできている。


「今は…特にねえよ。ただ座っているのが嫌ならさっさと出ていけ」

「…土方さんも意地悪です」

「俺も、か。あいつと一緒くたにされるのは気分が悪りいな」


出ていきたくないから聞いたのに。
予想できていても、そうもはっきり言われるとさすがにむっとくる。

でも何もせずに座っているだけも、申し訳なさからできない。

それがわかっているくせにわざと口にする土方さんは意地悪だ。


「謝りませんから、私。…本当のことです」

「おまえもちったあ強くなったな。あいつのおかげってか?」

「……違います」


『おかげ』と言うよりむしろ


『せい』な気がする…。


これ以上邪魔にならないよう部屋の隅に移動して居住まいを正す。

書き物をしているその背中は見惚れてしまいそうなほど真っ直ぐで、そこにかかる髪も同じくらい真っ直ぐ。

それに比べて猫背で癖の強い髪の沖田さん。

そのあたりにもその人の人となりがあらわれるんだろうか。


(あ、でも斎藤さんも少し癖があるかも。平助君は短いからはねているのかな。原田さんは多分、普通)


でも髪も性格も沖田さん以上の癖を持っている人はいないし。
やっぱり関係あるのかも…なんて、沖田さんに聞かれたら笑顔で『斬るよ』と言われそうなことを何気なしに考えていた。


「…で、おまえはどうするんだ」

「え?どうするって?」

「あいつのことに決まってんだろ。いつまでも逃げているだけか?」

「…逃げているように見えますか、やっぱり」

「誰がどう見てもな」

「…そうですか……そうですよね…」


それはそうだ。

実際、初めて逃げ出したときは沖田さんも驚きのあまりしばらく呆然としていたくらい、私は思いきり逃げた。

そして追いかけられて、藁にも縋る思いで土方さんの部屋に飛び込んだんだ。

初めて土方さんの部屋に来たときはこっぴどく叱られて……土方さんが「鬼の副長」と呼ばれている所以を身をもって理解した。





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