想いの行方(仮)

□見えないこたえ
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あれからどれくらいの刻がすぎたんだろう。

会話のない部屋に漂う微かな墨の香り、そしてやけに大きく聞こえる筆が紙の上を滑る音。

土方さんは私がいることなんてもう気にしていないのかもしれない。


……多分、そろそろ頃合いだ。


土方さんも、沖田さんも。

特になにも言わない土方さんだけど、私がいてはできない仕事もあるだろう。
いくら沖田さんから逃げるためとは言え、土方さんに迷惑をかけるのは本意ではない。

それに沖田さんも、ずっと私を待っているほど暇な人じゃない。
一番組組長としてやらなくてはならないことがあるみたいで、時間をおけばいつもいなくなっていた。


「もう行きます。お邪魔してすみませんでした」


部屋を辞しようと、私は頭を下げた。


「…迷惑かけるな」


そして小さな声でかけられた気遣いの言葉に少し驚いた。

迷惑をかけているのはむしろ私の方だと思うのに。


「…いいえ…失礼します」


もう視線を向けない土方さんにもう一度頭を下げて、私は部屋を後にした。

今度は音をたてないように、静かに障子を閉めて。

私がいなければこんなことにはならなかった。

私がいなければ新選組はあんな場面を見られたり、屯所に女がいることを隠したり今回の沖田さんとのことだってなかった。

あんなに忙しい土方さんが私に気を配る必要だってなかったはずなんだ。

沖田さんのせい、なんて言ってみても結局責任転嫁でしかない。


「…全部私のせい、なんだよね」


このやっかいな問題も、全部。

だったらその責任はきちんととらなくてはいけない。

さしあたって一番の問題は沖田さんへのこたえだ。
どう伝えるかまだ決まってないし、沖田さんに近寄るのも難しいけど。

それでも私にしかできないことだから。


「頑張らなきゃ」

「なにを頑張るの?」


両手で拳をつくって決意も新たにした瞬間、聞こえた声にその決意が崩れそうになった。

無意識に足を動かそうとしたらしい私は、気付けば沖田さんの腕の中にいて。


あれ?


なんで?


見上げた先にある意地悪な笑みに、私はしばらく混乱していた。






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